報道資料



平成14年11月12日
総務省


携帯電話の電波による課題学習能力への
影響は生じないことを確認
−生体電磁環境研究推進委員会の研究結果−



 総務省では、平成9年10月より「生体電磁環境研究推進委員会(委員長:上野 照剛 東京大学教授)」を開催して、電波の生体安全性評価に関する研究・検討を行っています。
 同委員会では、電波が課題学習能力に及ぼす影響について明らかにするため、平成11年度からラットを用いた迷路学習実験を行ってきましたが、このほど、その結果をとりまとめました。実験の結果、脳にばく露される携帯電話の電波が、電波防護指針の値(局所SAR※1:2.0W/kg)を大幅に上回る場合においても、熱作用(電波ばく露によって全身が加熱されることにより深部体温が上昇する作用)を生じない条件下では、課題学習能力への影響は認められないことを確認しました。

1.概要
 実験では、ラットを、電波ばく露を行った群、ばく露装置に入れるが電波ばく露を行わなかった群及び通常の飼育ゲージ内で飼育した群の3つのグループに分け、課題学習能力を比較しました。その結果、脳に電波防護指針の値を大幅に上回る電波をばく露した場合にも、グループ間で課題学習能力に差は認められないことを確認しました。この実験結果より、携帯電話の電波による課題学習能力への影響は見られないということができます。
 ○ 平成12年度及び平成13年度の実験の詳細については、別紙を参照
<平成12年度研究報告書(本文)はこちら(PDF)>  <平成13年度研究報告書(本文)はこちら(PDF)>
 ○ 平成11年度の実験の結果については、同委員会の中間報告(平成13年1月30日発表)参照
 ※1 局所SAR
 SAR(Specific Absorption Rate:比吸収率[W/kg])とは、生体が電磁界にさらされることにより、吸収されるエネルギー量をいう。
 局所SARとは、SARを人体局所の任意の組織(10g)にわたって平均したもの。

2.今後の予定
 同委員会では、安心して安全に電波を利用できる環境の更なる整備のために、今後とも携帯電話の使用と脳への影響との関係についての研究等、電波が生体へ及ぼす影響をより一層解明するために必要な研究を引き続き推進していくこととしています。

3.関係報道資料
 「生体電磁環境研究推進委員会」の中間報告 −安全で安心な電波利用に向けて−
(平成13年1月30日発表)
 (参考URL)http://www.tele.soumu.go.jp/j/ele/body/comm/04.htm

連絡先 : 総合通信基盤局電波部電波環境課
担当 : 志賀課長補佐、伊藤生体電磁環境係長
電話 : 03−5253−5907
FAX : 03−5253−5914






別紙


ラットを用いた迷路学習実験について

1.目的・概要
 T字型迷路を用いて、携帯電話の電波がラットの「参照記憶」(長期間にわたり保持される記憶。これに対し短期間のみ保持される記憶は「作業記憶」と呼ばれる。)の保持及び獲得(以下「課題学習能力」という。)に与える影響について追究する。実験では、ラットにT字型迷路を用いた学習実験を行うとともに、電波ばく露による熱作用の有無を測定した。

2.実験方法
T字型迷路 平成12年度の研究では、ラットに、T字型迷路内の餌の場所を記憶させる訓練を4日間行い、その後、餌をT字型迷路の訓練時とは左右反対の位置に置き換え、1時間の電波ばく露(全身平均SAR 1.7W/kg、脳平均SAR 7.5W/kgの電波(1,439MHzメガヘルツ PDC方式))の直後に16回の試行を行う実験を4日間続けた。この時、電波ばく露による体温上昇の有無を測定した。
 平成13年度の研究では、同様の訓練を4日間行った後、上記条件の電波ばく露を4週間 (週5回)行った。4週目に、餌をT字型迷路の訓練時とは左右反対の位置に置き換え、1時間の電波ばく露の直後に16回の試行を4日間続けた。同様に、電波ばく露による体温上昇の有無を測定した。
 反対の位置に餌を置き換えた直後ではラットは餌のない方に行くが、次第に餌のある方に行くことを学習し、新たな餌の場所を記憶するようになる(この方法は、参照記憶に対する学習能力を評価する目的で広く用いられてきたものである)。
 ばく露群※2、偽ばく露群※3及び対照群※4について、正解数の推移を比較することにより、電波ばく露がラットの課題学習能力に与える影響を評価した。

3.結論
 上記の電波ばく露条件下では、電波ばく露による熱作用は生じておらず、訓練期間中の正解数の推移と電波ばく露後の正解数の推移(いずれも4日間)について、ばく露群、偽ばく露群及び対照群の間に明らかな差は認められなかった。
 この実験結果より、携帯電話から発せられる電波レベル(局所平均SARが2.0W/kg以下)を大幅に上回る電波のばく露によっても、熱作用を生じない条件下では、ラットの課題学習能力への影響は見られないということができる。

 ※2     ばく露群
 電波ばく露装置により電波ばく露を行ったラット群。

※3     偽ばく露群
 電波ばく露装置にばく露群と同一期間入れるが、電波ばく露を行っていないラット群。

※4     対照群
 実験期間中、通常の飼育ケージ内で飼育し続けたラット群。


戻る