報道資料



平成15年10月10日
総務省


長期にわたる携帯電話の使用が脳腫瘍の発生に
及ぼす影響は認められないことを確認
−生体電磁環境研究推進委員会の研究結果−


 総務省では、平成9年度より「生体電磁環境研究推進委員会(委員長:上野 照剛 東京大学教授)」を開催して、電波の生体安全性評価に関する研究・検討を行っています。
 同委員会では、長期にわたる携帯電話の使用が脳腫瘍の発生に及ぼす影響について明らかにするため、平成12年度から2年間、ラットの脳に携帯電話の電波をばく露する長期局所ばく露実験を行ってきましたが、このほど、その結果をとりまとめ、脳腫瘍の発生への影響は認められないことを確認しました。


1.概要
   実験では、ラットに脳腫瘍を発生しやすいように化学的な処置を行った後、電波ばく露を行った群、ばく露装置に入れるが電波ばく露を行わなかった群、通常の飼育ケース内で飼育した群等のグループに分け、2年間の実験を行い脳腫瘍の発生を比較しました。その結果、携帯電話の電波をばく露しても脳腫瘍の発生には何ら影響は認められませんでした。
   ○本実験の詳細については、<研究報告書>(PDF)を参照

2.今後の予定
   同委員会では、安心して電波を利用できる環境の更なる整備のために、電波による眼球への影響の解明に関する研究等、電波が生体へ及ぼす影響の可能性をより一層解明するために必要な研究を引き続き推進していくこととしています。

3.関係報道資料
   「生体電磁環境研究推進委員会」の中間報告 −安全で安心な電波利用に向けて−
(平成13年1月30日発表)
 (参考URL)http://www.tele.soumu.go.jp/j/ele/body/comm/04.htm

連絡先 総合通信基盤局電波部電波環境課
担当 志賀課長補佐、伊藤生体電磁環境係長
電話 03−5253−5907
FAX 03−5253−5914










別紙


長期局所ばく露実験について



1.目的・概要
   本実験は、携帯電話の長期的な使用が脳腫瘍の発生(脳に対する発がん作用及びその促進作用)に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。このため、ラットのほぼ一生に相当する2年間(104週間)にわたりラットの脳に電波を照射し、ラットの脳腫瘍の発生について追究した。

2.実験方法
   妊娠18日目のラットに発がん物質(ENU※1)を投与し、脳腫瘍の発生しやすい条件に設定し、それから産まれたラットを雌雄それぞれ200匹ずつ用意した。これらを1日1.5時間、脳平均SAR※2 2.0W/kgワットパーキログラムの電波(1,439MHzメガヘルツ PDC方式)を週5日間照射する高ばく露群、1日1.5時間、脳平均SAR 0.67W/kgワットパーキログラムの電波(同上)を週5日間照射する低ばく露群、ばく露装置に同一期間入れるが電波ばく露を行わない偽ばく露群及び通常の飼育ケースで飼育を続ける非拘束群(ENU投与群)に分けた。1つの群は、雌雄それぞれ50匹ずつとした。また、ENUを投与しないものから産まれた児ラットを通常の飼育ケースで飼育を続ける無処置群(雌雄それぞれ50匹ずつ)も設けた。
 2年間(104週間)のばく露期間が終了後、高ばく露群、低ばく露群、偽ばく露群、非拘束群(ENU投与群)及び無処置群について、脳腫瘍の発生状態等を詳しく病理組織学的に比較することによって、電波ばく露がラットの脳腫瘍の発生に及ぼす影響を評価した。

3.結論
   表1に示すように、脳腫瘍(中枢神経系腫瘍)及び脊髄腫瘍の発生は、その発生頻度と腫瘍のタイプに電波ばく露の影響を認められなかった。下垂体腫瘍の発生は、表2に示すように雄において電波ばく露により減少したが、その作用機構については明らかではなかった。その他、生存率、体重、器官重量等についても検討したが、電波ばく露の影響は見られなかった。
 これらの結果より、長期にわたる携帯電話の使用が脳腫瘍の発生に及ぼす影響は、認められないと結論された。

※1  ENU(N-ehtyl-N-nitrosourea)
 脳腫瘍を発生させる発がん物質であり、妊娠中に母親に投与するとその子供に脳腫瘍が発生しやすくなる。自然状態のラットでは脳腫瘍発生の頻度が極めて低いため、電波のばく露による影響を感度良く検出することが困難であることから、発がん物質であるENUを使用して実験を行った。
 
※2  SAR(Specific Absorption Rate:比吸収率[W/kg])
 生体が電磁界にさらされることにより、単位重量に吸収される電力。電波法では、携帯電話端末等は、それらから発射される電波の人体頭部におけるSARを2.0W/kgワットパーキログラム以下とすることを義務付けている。本実験においては、高精度なばく露装置を用いることにより、2年間のばく露期間中、ラット頭部内でのSARが常に所定の値になるように電波の制御を行った


表1 実験結果(脳腫瘍及び脊髄腫瘍)

無処置群 非拘束群
(ENU投与群)
偽ばく露群 低ばく露群 高ばく露群
ENU 投与せず 投与 投与 投与 投与
SAR(W/kg)ワットパーキログラム - [*] - [*] 0 0.67 2.0
雌(母数) 50 50 50 50 50
脳腫瘍 0(0%) 9(18%) 15(30%) 9(18%) 8(16%)
脊髄腫瘍 0(0%) 3(6%) 2(4%) 3(6%) 2(4%)
雄(母数) 50 50 50 50 50
脳腫瘍 0(0%) 9(18%) 12(24%) 15(30%) 11(22%)
脊髄腫瘍 0(0%) 1(2%) 1(2%) 0(0%) 2(4%)
*:ばく露装置に入れず、通常の飼育ケースで飼育
  
注)    研究報告書TABLE 9より抜粋。表中の数値は腫瘍の発生した匹数を、( )内の数値は母数に対する割合(%)を示す。


表2 実験結果(下垂体腫瘍)

無処置群 非拘束群
(ENU投与群)
偽ばく露群 低ばく露群 高ばく露群
ENU 投与せず 投与 投与 投与 投与
SAR(W/kg)ワットパーキログラム - [*] - [*] 0 0.67 2.0
雌(母数) 49 50 50 49 50
腺腫(A) 9(18%) 12(24%) 15(30%) 14(28%) 10(20%)
癌(B) 1(2%) 6(12%) 3(6%) 3(6%) 0(0%)
総数(A+B) 10(20%) 18(36%) 18(36%) 17(34%) 10(20%)
雄(母数) 50 49 50 48 50
腺腫(A) 6(12%) 10(20%) 10(20%) 7(14%) 1(2%)**
癌(B) 2(4%) 3(6%) 4(8%) 1(2%) 1(2%)
総数(A+B) 8(16%) 13(26%) 14(28%) 8(16%) 2(4%)**
*:ばく露装置に入れず、通常の飼育ケースで飼育
**:偽ばく露群(雄)に対し、有意な低値(危険率1%)を示したもの

注)    研究報告書TABLE 14より抜粋。表中の数値は腫瘍の発生した匹数を、( )内の数値は母数に対する割合(%)を示す。
  


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