報道資料


平成15年6月20日
総務省


電波の医用機器等への影響に関する調査結果
−ワイヤレスカードシステム等が植込み型医用機器へ与える影響について確認−

  平成14年度の「電波の医用機器等への影響に関する調査」の結果、ワイヤレスカードシステムから発射される電波が植込み型の医用機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)に及ぼす影響については、ワイヤレスカードシステムのリーダライタ部(アンテナ部)から12cm離れればまったく影響がないことが確認されました。
  また、電子商品監視機器から発射される電波が植込み型の医用機器に及ぼす影響については、既に厚生労働省の医薬品等安全性情報155号(平成11年6月30日)及び医薬品・医療用具等安全性情報173号(平成14年1月17日)により注意喚起されていたように、植込み型の医用機器に影響を及ぼす可能性のあることが確認され、また、その影響を最小限に抑えるための方向性が、中間報告として示されました。

1 背景

  ワイヤレスカードシステム(*1)は、鉄道、バスなどの各種交通機関の出改札システムやオフィスや工場などの入退室管理システムなど様々な場所で広く利用されており、今後も幅広い分野での普及が見込まれています。このような状況から、国民が安心してワイヤレスカードシステムを利用できる電波環境の確保のため、ワイヤレスカードシステムのリーダライタ部(アンテナ部)から発射される電波が植込み型医用機器に及ぼす影響について調査を実施しました。
  また、電子商品監視機器(*2)については、図書館や商店などの出入り口付近に広く設置されており、電子商品監視機器から発射される電波が植込み型医用機器に影響を及ぼしたという報告が国内外でなされています。このような状況から、電子商品監視機器から発射される電波が植込み型医用機器へ与える影響の度合を調査し、影響を最小限に抑えるための方策を検討することとしました。

2 調査内容

 (1)   ワイヤレスカードシステムが植込み型医用機器に及ぼす影響

  植込み型医用機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)の代表的機種について、現在使用されているワイヤレスカードシステムの代表的機種から発射される電波が及ぼす影響を、実験的に影響が一番大きくなる最悪の条件において調査しました。
 調査機種数はつぎのとおりです。
 ア ワイヤレスカードシステム  
  (ア) 連続磁界モード(*3)の機種   11機種
  (イ) 断続磁界モード(*4)の機種 2機種
 イ 植込み型医用機器  
  (ア) 植込み型心臓ペースメーカ 47機種
  (イ) 植込み型除細動器 8機種

 (2)   電子商品監視機器が植込み型医用機器に及ぼす影響

  植込み型医用機器の代表的機種について、現在使用されている電子商品監視機器の代表的機種(一部)から発射される電波が及ぼす影響を、実験的に影響が一番大きくなる最悪の条件において調査するとともに、電子商品監視機器からの影響を最小限に抑えるための方向性について検討しました。
  調査機種数はつぎのとおりです。
  ア 電子商品監視機器   10機種
  イ 植込み型医用機器  
   (ア) 植込み型心臓ペースメーカ 47機種
   (イ) 植込み型除細動器 8機種
  なお、本調査は、平成15年度も継続して実施することとしており、本報告は中間報告です。

3 調査結果概要

 (1)   ワイヤレスカードシステムが植込み型医用機器に及ぼす影響

  心臓ペースメーカについては、ほとんどのワイヤレスカードシステムから影響を受けることはありませんでしたが、連続磁界モードの機種の一部から1cm未満の距離で影響を受けたものがあり、また、断続磁界モードの機種から8cmの距離で影響を受けたものがありました。この影響は、ワイヤレスカードシステムのリーダライタ部(アンテナ部)から遠ざかれば、正常に復することも確認されました。

  除細動器については、いずれのワイヤレスカードシステムからも影響を受けることはありませんでした。

 (2)   電子商品監視機器が植込み型医用機器に及ぼす影響(中間報告)

  電子商品監視機器の周辺では、植込み型医用機器に影響を与える可能性があることが確認されました。

  心臓ペースメーカについては、電子商品監視機器のゲートに近づくと複数周期におけるペーシング機能への影響(*5)を生じる場合があることが確認されました。この影響は、電子商品監視機器から遠ざかれば、正常に復することも確認されました。
  また、電子商品監視機器のゲートの近傍に留まるとペースメーカのプログラムがリセットされるという、そのまま放置すると患者の病状を悪化させる可能性がある影響も確認されました。この影響は、電子商品監視機器のゲートの中央付近では発生しないことも確認されました。

  除細動器については、除細動器のペースメーカ機能(*6)に対しては、複数周期におけるペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、電子商品監視機器から遠ざかれば、正常に復することも確認されました。
  また、除細動器の除細動器機能(*7)に対しては、電子商品監視機器のゲートの近傍にゲートに正対して留まると不要除細動ショックの発生という、直ちに患者の病状を悪化させる可能性がある影響も確認されました。この影響は、除細動器の装着者が電子商品監視機器に正対しなければ発生しないことも確認されました。

4 影響防止のために

 (1)   ワイヤレスカードシステムが植込み型医用機器に及ぼす影響の防止策

  心臓ペースメーカ装着者は、ワイヤレスカードシステムのリーダライタ部(アンテナ部)から心臓ペースメーカの装着部位を、安全率を見込んで12cm以上離すことにより安全にワイヤレスカードシステムを利用することができます。

  除細動器装着者は、日常生活において特別にワイヤレスカードシステムを意識する必要はありませんが、除細動器装着部位をワイヤレスカードシステムのリーダライタ部(アンテナ部)に密着させることは避けるべきです。

  ワイヤレスカードシステムの製造業者等は、リーダライタ部(アンテナ部)を明確に認識できるよう表示等を工夫することが影響防止に有効です。また、断続磁界モードは、影響が大きくなりますので、できる限り連続磁界モードを利用することが影響防止には有効です。

 (2)   電子商品監視機器が植込み型医用機器に及ぼす影響の防止策

  植込み型医用機器の装着者は、電子商品監視機器に正対せず、速やかに中央を通過することが、影響を防止する上で有効です。また、電子商品監視機器の設置場所を明示するEASステッカ(*8)が出入り口付近に貼付されている場所では、立ち止まらず通路の中央を真っ直ぐ速やかに通過する必要があります。特に、電子商品監視機器の周囲に留まらず、また、寄りかかるようなことは絶対に避けるべきです。

  電子商品監視機器の製造業者等は、電子商品監視機器を設置している全てのユーザに対し、EASステッカのもつ意味とステッカの貼付の周知を速やかに徹底するべきです。

  植込み型医用機器の製造業者等は、電子商品監視機器が設置されている場所又はEASステッカの貼付されている場所の通過方法として、植込み型医用機器の装着者及び医師に対し、アの防止策の周知を徹底すべきです。

  電子商品監視機器の調査数が少ないため、さらに調査を継続する必要があります。


報告書(PDF)
報告書(HTML)

(連絡先)
  総合通信基盤局電波部電波環境課
  担当:志賀課長補佐、土屋係長
  電話: (代表)03−5253−5111(内5907)
(直通)03−5253−5907
(FAX)03−5253−5914




*1   ワイヤレスカードシステム:ワイヤレスカードシステムのリーダライタと非接触ICカードとの間で電力や情報のやり取りを非接触で行うシステムであり、一般的に非接触ICカードシステム等と呼ばれている。
*2   電子商品監視機器:感知ラベルやタグを貼り付けた商品などが精算などの手続きをせずにゲート型センサーを通過したときに警報音を発し、不正の持ち出しを防止する機器であり、一般的には万引き防止装置等と呼ばれている。
*3   連続磁界モード:次ぎに示す断続磁界モード以外のもの。
*4   断続磁界モード:ワイヤレスカードシステムのリーダライタ(アンテナ部)から発射される電波が数ヘルツから数十ヘルツの範囲で周期的に断続するもの。
*5   複数周期におけるペーシング機能への影響:
  ペースメーカ等が設定された周期でペーシングパルスを発生している状態において、外部からの電波の影響を受けたことにより複数のペーシングパルスが抑圧され、または、設定された周期からのずれが発生してしまった状態
  ペースメーカ等のペーシングパルスが抑圧されている状態において、外部からの電波の影響を受けたことにより複数のペーシングパルスが発生してしまった状態
*6   除細動器のペースメーカ機能:植込み型除細動器は、通常は植込み型心臓ペースメーカとして機能しており、このペースメーカ機能のこと。
*7   除細動器の除細動器機能:植込み型除細動器は、心臓の細動を検出した場合に除細動器として機能するようになっており、この除細動器機能のこと。
*8   EASステッカ:EASステッカは、日本EAS機器協議会が、植込み型医用機器の装着者に対して、電子商品監視機器の設置場所をわかりやすくし、注意を促すために設定したもので、電子商品監視機器の利用者に配布し貼付をお願いしているものです。
  EASステッカイメージ
 日本EAS機器協議会の許諾を得て、本資料に使用しています。
*9   EAS:ELECTRONIC ARTICLE SURVEILLANCE(電子商品監視)




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