1.航空通信の概要
「航空通信」は、一般用語であり特に法規則上の定義はありませんが、一般的には飛行中の航空機と地上の無線設備との空地間、あるいは航空機相互間で電話又はデータ通信によって行われる無線通信のことをいいます。
航空通信に関する無線設備は、地上に設置される無線設備、航空機に設置される無線設備、人工衛星を使用して通信を行う無線設備に分けることができます。
- (ア)地上に設置される無線設備
空港において、管制官が音声で通信をするための無線電話や航空機の位置を把握するためのレーダーなどがあります。
- (イ)航空機に設置される無線設備
航空機のパイロットが地上にいる航空管制官等の無線従事者と音声で通話するための無線設備や他の航空機との衝突を回避するためのレーダー、緊急時に信号を発射する無線設備などがあります。
- (ウ)人工衛星を使用して通信を行う無線設備
詳しくは、こちらをご覧ください。
2.無線設備
- (ア)地上に設置される無線設備
- ①短波無線設備(HF無線設備)
概要 陸上に設置されたVHF無線設備からの電波が到達しない洋上等における航空交通管制、運航管理通信において使用される無線設備。 周波数 2.8MHz~22MHz 技術基準 無線設備規則45条の11 - ②計器着陸システム(ILS)
概要 着陸進入中の航空機に対し、地上から指向性の電波を発射し、滑走路への進入コースを指示する装置。 周波数 75MHz(マーカビーコン),108~118MHz(ローカライザ),328~335MHz(グライドパス) 技術基準 無線設備規則45条の12の7 - ③超短波無線設備(VHF無線設備)
概要 航空交通管制、運航管理通信において使用される無線設備。 周波数 118~137MHz 技術基準 無線設備規則45条の12 - ④空港無線通信用無線局(空港MCA)
概要 空港及びその周辺において、空港管理者、航空会社、空港関連事業者等の利用に供する電気通信業務用のMCA方式の空港内移動通信システム。 周波数 415.5~417.5MHz,460~462MHz 技術基準 無線設備規則第49条の15 - ⑤超短波全方位式無線標識施設(VOR)
概要 航空機に方位情報を与える無線標識。 周波数 108~118MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の8 - ⑥距離測定装置(地上DME)
概要 航空機に距離情報を与える装置。 周波数 970~1016MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の5 - ⑦戦術航法装置(TACAN)
概要 航空機に方位情報及び距離情報を与える軍用施設として、米国において開発されたもの。日本では主に自衛隊等が利用している。TACANの方位信号方式はVORとは相違しているため民間航空機に搭載されたVOR受信機では受信できない。 周波数 960~1213MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の9,昭和51年郵政省告示第236号 - ⑧二次監視レーダー(SSR)
概要 航空機に質問電波を送信し、それを受信した航空機搭載のATCトランスポンダからの応答により、航空機の識別及び高度情報を得る二次レーダー。 周波数 1030MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の6 - ⑨マルチラテレーションシステム(MLAT)
概要 SSRモードSの信号を利用し、空港内の航空機又は車両に搭載された無線設備から送信される信号を3か所以上の受信設備で受信することにより、航空機等の位置を把握する監視システム。 周波数 1030MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の6 - ⑩広域マルチラテレーションシステム(WAM)
概要 監視対象を空港面から空港周辺に拡大したマルチラテレーションシステム。 周波数 1030MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の6 - ⑪空港監視レーダー(ASR)
概要 空港において、離陸機の航空路までの誘導、着陸機の航空路から飛行場管制までの誘導等を行う際に使用する一次レーダー。 周波数 2700~2900MHz 技術基準 個別の技術基準はなし - ⑫空港面探知レーダー(ASDE)
概要 滑走路、誘導路上の航空機や空港内の作業車両等を探知するためのレーダー。 周波数 24.35~24.65GHz 技術基準 個別の技術基準はなし
- ①短波無線設備(HF無線設備)
- (イ)航空機に設置される無線設備
- ①短波無線設備(HF無線設備)
概要 陸上に設置されたVHF無線設備からの電波が到達しない洋上等における航空交通管制、運航管理通信において使用される無線設備。 周波数 2.8MHz~22MHz 技術基準 無線設備規則45条の11 - ②超短波無線設備(VHF無線設備)
概要 航空交通管制、運航管理通信において使用される無線設備。 周波数 118~137MHz 技術基準 無線設備規則45条の12 - ③航空機用救命無線機(ELT)
概要 航空機が海上に不時着した場合又は陸上に墜落した場合に、遭難者がその地点を捜索救助機関や捜索救助航空機(船舶)に探知させるための電波を自動的に発射する装置。 周波数 121.5MHz,243MHz,406MHz帯 技術基準 無線設備規則45条の12の2 - ④距離測定装置(機上DME)
概要 航空機に設置する機上DME装置から質問電波を発射し、地上の定点に設置する地上DME(又は地上TACAN)からの応答電波を受信し、応答電波を受信するまでの時間を計測して、地上DMEまでの距離を測定する装置。 周波数 1025~1150MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の5 - ⑤航空機衝突防止装置(ACAS)
概要 航空機に設置するACASからの質問電波に対する周辺の航空機の応答電波により、他機の位置、高度等の情報を得ることにより、衝突を回避するための情報を自動的に表示し、警報を発する装置。 周波数 1030、1090MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の11 - ⑥ATCトランスポンダ
概要 地上の二次監視レーダー(SSR)からの質問信号パルスを受信すると、自機に指定された識別記号、飛行高度等の情報を符号化し、応答信号パルスによりSSRに自動的に応答する装置。 周波数 1030、1090MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の6 - ⑦電波高度計
概要 航空機から真下に電波を発射し、地表面からの反射波を受信するまでの時間から、当該航空機の対地高度を測定する装置。 周波数 4200~4400MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の9,昭和51年郵政省告示第237号 - ⑧航空機搭載気象レーダー
概要 航空機の飛行方向にある雲や降雨などの気象状況をレーダースコープ上に表示させることによって、航空路上の悪天候領域を予め探知する装置。 周波数 9300~9500MHz 技術基準 無線設備規則45条の12の9,昭和51年郵政省告示第235号
- ①短波無線設備(HF無線設備)
3.航空通信で使用される主な周波数
周波数 | システムの略称 |
---|---|
2.8MHz~22MHz | HF |
75MHz | ILS(マーカビーコン) |
108~118MHz | ILS(ローカライザ) |
108~118MHz | VOR |
118~137MHz | VHF |
121.5MHz,243MHz | ELT |
328~335MHz | ILS(グライドパス) |
406~406.1MHz | ELT |
415.5~417.5MHz | 空港MCA(移動局) |
460~462MHz | 空港MCA(基地局) |
970~1016MHz | 地上DME及びTACAN |
1030、1090MHz | ACAS |
1030、1090MHz | SSR |
1030、1090MHz | MLAT |
1030、1090MHz | WAM |
1030、1090MHz | ATCトランスポンダ |
2700~2900MHz | ASR |
4200~4400MHz | 電波高度計 |
9200~9800MHz | 合成開口レーダー |
9300~9500MHz | 航空機搭載気象レーダー |
24.35~24.65GHz | ASDE |
4.国内の航空通信の歴史
時期 | 概要 |
---|---|
昭和4年 (1929年) |
航空通信業務(中波無線電信を使用)の開始 |
昭和16年 (1941年) |
無線標識の運用開始(中波無線標識局) |
昭和20年 (1945年) |
GHQ覚書により、民間航空機の運航、製造、研究等の禁止 |
昭和25年 (1950年) |
「国内運送事業令」が交付され国内運航運送が再開 |
昭和34年 (1959年) |
航空路の管制権が米軍から日本に移管 |
昭和63年 (1988年) |
MLS(DME/Pを含む。)を制度化 |
昭和63年 (1988年) |
航空機固有のアドレスを利用して航空機毎に質問することが可能なシステムであるSSRモードSを制度化 |
平成2年 (1990年) |
VHF地空データリンクサービス開始 インマルサット衛星通信サービス開始 |
平成2年 (1990年) |
ATCトランスポンダの機能を応用した航空機相互の衝突を防止する機上のシステムである航空機衝突防止装置(ACAS)を制度化 |
平成14年 (2002年) |
陸上において使用する自動型航空機用救命無線機(墜落等の衝撃により自動的に電波を発射するもの。)の搭載設備の導入 |
平成16年 (2004年) |
デジタル方式の空港無線通信システム(デジタル空港MCA)を制度化 |
平成17年 (2005年) |
航法援助設備のサービスエリア外となる洋上等の飛行において、音声通信が安定し、極地圏においても通信が可能なHFデータリンクを制度化 |
平成22年 (2010年) |
空港内の航空機又は車両に搭載された無線設備から送信される信号を3カ所以上の受信設備で受信することで、航空機等の位置を把握する監視システム(マルチラテレーションシステム)を制度化 |
平成24年 (2012年) |
VHF帯航空無線電話をナロー化し、日本国内においては、25kHz間隔でのみ割当て可能とされていたVHF帯航空無線電話用の周波数の割当てを8.33kHz間隔でも可能とした。 |
平成25年 (2013年) |
平成22年に制度化された複数地点受信方式航空監視システムについて、監視対象を空港面から空港周辺に拡大したシステム(広域マルチラテレーションシステム)を制度化 |
5.用語集
用語名 | 説明 |
---|---|
ACAS (Airborne Collision Avoidance System) |
2.(イ)⑤参照。 |
ADS-B (Automatic Dependent Surveillance-Broadcast) |
SSRのモードSを使用して、航空機が自分の位置や速度及び周辺気流等の情報を、他の航空機等に向けて1090MHzで送信する装置。ADS-B では約100NM以上の遠距離から受動的に受信できるというだけでなく、ADS-B メッセージには追加情報(大気速度など)が含まれていることで予測能力が向上する。 |
AEIS (Aeronautical Enroute Information Service) |
航空路情報サービス。航空路上にあるすべての航空機を対象に気象状態、飛行場、航空保安施設等の運用状態の変化に関する最新の情報をVHF帯で放送するとともに、航空機からの異常気象などに関する報告を受けた場合、その情報を他機及び気象機関へ提供する。 |
AeroMACS | 空港面における、空地間の高速無線通信システム。 |
AIP (Aeronautical Information Publication) |
世界各国の民間航空当局(日本の場合は国土交通省)が発効している航空路誌。 |
APAC (Asia‐Pacific) |
ASPACともいう。ICAOのアジア太平洋支部としてタイに事務局が存在している。 |
ASR (Airport Surveillance Radar) |
2.(ア)⑪参照。 |
ATC (Air Traffic Control) |
航空管制通信。 |
ATCRBS (Air Traffic Control Radar Beacon System) |
地表の定点において、航空機の位置、識別、高度その他の情報を取得するための航空交通管制の用に供する通信の方式。 |
ATIS (Automatic Terminal Information Service) |
飛行場情報放送サービス。航空機が離着陸に必要な気温,風向,風速,視程などの気象情報や使用滑走路,進入方式,航行援助施設の運用状況など,その空港の情報を放送するサービス。 |
DME (Distance Measuring Equipment) |
距離測定装置。電波が一定速度で伝搬する特性を利用して航空機と地上DMEとの距離を測定する。航行中の航空機に方位情報を与えるVORと併設して利用される。 |
ELT (Emergency Locator Transmitter) |
2.(イ)③参照。 |
ICAO (International Civil Aviation Organization) |
国際民間航空機関。航空分野全般の技術基準を検討し、決定する国際連合の専門機関の一つ。航空無線に関しても、ITU-Rによって分配された周波数に基づいて、技術基準を検討・策定している。 |
ILS (Instrument Landing System) |
2.(ア)②参照 |
ILSグライドパス (Glide path,Glide slope) |
適切な進入角を示すもので,90Hzと150Hzに変調されたUHF帯の電波が,水平面に対し2.5~3度の上向きの角度の進入コースを形成するように発射される。 |
ILSマーカー (Marker) |
進入コース上の所定位置に設けられ,上空に指向性電波を発射して着陸進入端までの距離を知らせる装置。 |
ILSローカライザー (Localizer) |
滑走路の中心から左右のずれを示すもので,VHF帯の電波が使用される。ローカライザーコースは,進入方向に対して左側では90Hz,右側では150Hzの変調信号が強くなり,その中心線上においては両者の変調度が等しくなるような放射電界により形成されている。 |
ITU-R | ITUの無線部門。周波数を割り当てる。 |
NM (Nautical Mile) |
距離を表す単位。1NM=1,852 m。地球上の緯度1分に相当する。 |
MCA (Multi-Channel Access) |
複数の無線チャネルを多数の利用者が共用して利用する移動通信システム。 |
RR (Radio Regulations) |
国際電気通信連合憲章に規定される無線通信規則。周波数の国際的な分配等が規定される。 |
RCAG (Remote Center Air-Ground Communication) |
遠隔対空通信施設。国土交通省所属の無線電話。航空路を航行する航空機のパイロットと管制官の交信に使用される。 |
RNAV (Area Navigation) |
航空保安無線施設や自動航法機器、慣性航法装置を利用して、自機の位置を算出し、任意の経路(航空保安施設の位置に関わらず航路を設定)を飛行する航法。 |
RPM (Radar Performance Monitor) |
SSRを運用する際、SSRに対して自らの位置、識別その他の情報を送信することで、航空機の位置の送信及びSSRの信号を検出し航空機の位置・識別情報の妥当性を常時監視するシステム。 |
SSRモードA/C (Secondary Surveillance Radar) |
トランスポンダのモードの一つ。モードAは航空機を識別するためのスクォーク(ATCコード)を、モードCは高度情報を送信する。併せ持ったものはA/Cとなる。 |
SSRモードS | 航空機固有のアドレスを利用して航空機毎に質問することが可能なシステム。複数の航空機が存在していても必要な時に必要な応答信号だけを選定して取得することが可能となり、従来に比べ処理容量が大幅に向上することができる。 |
TCAS (Traffic Alert and Collision Avoidance System) |
米国におけるACASの呼称。 |
UAS (Unmanned Aircraft System) |
UAV(Unmanned Aircraft Vehicle)とも言われている。無人航空機・ドローンを意味する。 |
VDL (VHF Data Link or VHF Digital Link) |
航空専用のVHF帯の周波数を用いたデータリンク。 |
1次レーダー | 航空交通管制レーダーのうち、地上レーダーからパルス波を発射し、そのパルス波が航空機に反射して戻ってくるまでの時間から航空機までの距離を、反射波を受信するアンテナの方向から航空機の方位を測定する。 |
2次レーダー | 地上レーダーから質問信号パルスを航空機局に発射すると航空機局のトランスポンダがそれに応答する信号を発射する。その応答信号を受信することによってその航空機の識別、高度情報などを入手する。 |
義務航空機局 | 航空機の航行の安全を確保するため、一定の無線設備を備え付けることを義務づけられている航空機の無線局(電波法第13条第2項)。 |
航空機局 | 航空機の無線局(人工衛星局の中継によってのみ無線通信を行うものを除く。)のうち、無線設備がレーダーのみのもの以外の無線局。 |
航空局 | 航空機局と通信を行うため陸上に開設する(移動中の運用を目的としない)無線局(船舶に開設するものを含む)。 |
無線航行陸上局 | 移動しない無線航行局(無線航行業務を行う無線局)。 |
無線標識局 | 移動局に対して電波を発射し、その電波発射の位置からの方向又は方位をその移動局に決定させることができるための無線航行業務を行う無線局。 |
呼出符号 (Call Sign) |
無線局の識別を可能にするため、無線局に対して指定されるローマ字又はそれと数字の組み合わせからなる符号。 |
航空移動(OR)業務 | 主として国内民間航空路又は国際民間航空路以外の調整に関するものを含む通信を目的とする航空移動業務。 |
航空移動(R)業務 | 主として国内民間航空路又は国際民間航空路に沿った安全及び正常な飛行に関する通信を目的とする航空移動業務。 |
トランスポンダ、ATCトランスポンダ | トランスポンダ(Transponder)はTransmitter(送信機)とResponder(応答機)からの合成語で、受信した電気信号を中継送信したり、受信信号に何らかの応答を返したりする機器の総称。 |
ノータム (Notice to Airmen) |
航空官署(日本の場合は国土交通省航空局航空情報センター)が発行する航空機の運航に関する各種情報。 |
担当:総合通信基盤局電波部基幹・衛星移動通信課