発 表 日 : 2001年5月15日(火)

タイトル : 現行携帯電話端末の電波防護基準への適合を確認
−携帯電話端末の電波防護指針への適合確認調査結果−

総合通信基盤局




 総務省は、現在、人体側頭部のそばで使用する携帯電話端末等に対し、電波防護規制※1を導入するための関係省令の一部改正案について、本年3月に電波監理審議会に諮問しています。
 この規制導入に当たり、市場で販売されている携帯電話端末76機種について、(財)テレコムエンジニアリングセンターに電波防護指針への適合確認調査を委託し、携帯電話端末の比吸収率(SAR)※2の実態調査を行いました。その結果、今回調査を行った76機種全てが電波防護規制を満足していることを確認しました。
 調査の概要は、次のとおりです。


  調査の概要  

  1.  調査目的
     現在販売されている携帯電話端末のSARの実態を把握すること。

  2.  調査対象機種
     携帯電話端末76機種(平成13年1月現在市販されていた機種:別紙1参照)

  3.  調査方法
     実際市場で販売されている携帯電話端末を購入し、当該端末のSARを平成12年電気通信技術審議会一部答申「人体側頭部の側で使用する携帯電話端末等に対する比吸収率の測定方法」に準拠し、頬の位置/傾斜の位置、右側頭部/左側頭部、アンテナの収納/伸張の3つの組合せ(1端末当たり8測定条件)で測定した。

  4.  調査結果
     携帯電話端末76機種のSAR値の測定結果は、次のとおりであり、いずれの機種も電波防護規制値の2.0W/kgを満たしていることが確認された。(詳細は別紙2参照)

図1 800MHz帯携帯電話端末のSAR値分布 図2 1.5GHz帯携帯電話端末のSAR値分布

※800MHz帯及び1.5GHz帯について、8測定条件のうち最大のSAR値をプロットした

 なお、本測定結果は、平成12年電気通信技術審議会一部答申に準拠して行っているが、今回調査に使用したファントム※3が電気通信技術審議会一部答申の形状と一部異なっていること、市場に流通している携帯電話端末それぞれ1個を入手し当該端末のSAR値を測定しているため製造段階でのばらつきが予想されることから、本調査結果をもって当該機種のSAR値を決定付けるものではない。


 調査結果の分析 


1 800MHz帯と1.5GHz帯の携帯電話端末を比べると、1.5GHz帯の携帯電話端末の方がSAR値が大きい傾向にあることがわかる(図1,図2)。これは、1.5GHz帯の電波は人体内部に浸透せず表面に集中する傾向にあるが、今回の測定方法は最大値を測定するため、1.5GHz帯では表面部の最大値を測定することに起因しているものと推測される。

(参考)植込み型心臓ペースメーカへの影響について
 総務省が平成12年度に(社)電波産業会に委託して実施した携帯電話端末の植込み型心臓ペースメーカに対する干渉の実験では、800MHz帯と1.5GHz帯の携帯電話端末を比較すると、1.5GHz帯の携帯電話端末の方がより近い距離まで干渉を起こさないことが確認されている。(参考2参照)

2 頬の位置と傾斜の位置とで比較すると、1.5GHz帯の携帯電話端末では、アンテナが頭部に近づく「傾斜の位置」においてSAR値が大きくなる傾向があることがわかる(図3,図4)。SAR値はアンテナを側頭部から離すことにより、大きく減少することが示される。

3 800MHz帯と1.5GHz帯ともに、アンテナを収納した場合に比べ、伸張した場合の方が概ねSAR値が小さくなる傾向が見られる(図5,図6)。


図3 測定位置によるSAR値分布の変化(800MHz帯) 図4 測定位置によるSAR値分布の変化(1.5GHz帯)

※800MHz帯及び1.5GHz帯について、それぞれ頬の位置ならびに傾斜の位置での4測定条件(右側頭部/左側頭部、アンテナの収納/伸張)のうち最大のSAR値をプロットした

図5 アンテナの収納/伸張によるSAR値分布の変化 図6 アンテナの収納/伸張によるSAR分布値の変化

※ 800MHz帯及び1.5GHz帯について、右側頭部かつ頬の位置におけるSAR値を、アンテナ収納ならびに伸張の別にプロットした


※1 電波防護規制
 携帯無線通信を行う陸上移動局及び非静止衛星に開設する人工衛星局の中継により携帯移動衛星通信を行う携帯移動地球局の無線設備は、当該無線設備から発射される電波の人体頭部における比吸収率を2W/kg以下にすること。ただし、平均電力20mW以下の無線設備及びこの規定を適用することが不合理であるものを除く。

※2 比吸収率(SAR)
 生体が電磁界にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量をいい。ここでは、6分間における人体局所の任意の組織10gにわたり平均化したものをいう。

※3 ファントム
 実験的にSARを推定するために用いられる擬似的な人体モデルをいう。本測定では、人体形状を模擬するための外殻(容器)とそれに充填される液剤で構成される均一ファントム(モデル全体に渡って同じ材料を用いるもの)を用いている。


関係報道資料
「安心して電波を利用できる環境を整備するために」(1997年4月24日)

「人体側頭部の側で使用する携帯電話端末等に対する比吸収率の測定方法の策定」(2000年11月27日)

「人体側頭部のそばで使用する携帯電話端末等に対する電波防護規制の導入について」(2001年3月21日)


連絡先: 総合通信基盤局電波部電波環境課
担 当: 矢島課長補佐、上川生体電磁環境係長
電 話: 03−5253−5907





別紙1


調査対象機種


  1. 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ

    株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ


  2.  株式会社エーユー

    株式会社エーユー


  3.  ジェイフォン東日本株式会社

    ジェイフォン東日本株式会社


  4.  株式会社ツーカーセルラー東京

    株式会社ツーカーセルラー東京




参考1


測定位置等について


 本測定における携帯電話端末の動作条件及びファントムに対する位置条件は、次の3つの組合せ(1端末当たり8条件)で測定を行いました。

1 アンテナの収納/伸張
2 右側頭部/左側頭部
3 頬の位置(図1)/傾斜の位置(図2)

図1 頬の位置

※ 受話部が耳に接し、送話部が口に近接し、筐体が頬に接した、いわゆる通常使用する位置のこと。



図2 傾斜の位置

※ 頬の位置から、筐体を15°外側に傾けた、アンテナが側頭部に近接する位置




参考2


「電波の医用機器等への影響に関する調査研究報告書」について

(携帯電話端末と心臓ペースメーカの関係に関する現行指針の妥当性を確認)

 総務省では、平成12年度から「電波の医用機器等への影響に関する調査」を(社)電波産業会に委託して実施しており、平成13年3月に、平成12年度の調査研究結果を取りまとめた報告書(「電波の医用機器等への影響に関する調査研究報告書」(平成13年3月 社団法人電波産業会))を同会から受領した。

 同報告書では、現状においても「植込み型心臓ペースメーカ装着者は、携帯電話端末使用及び携行に当たっては、携帯電話端末を植込み型心臓ペースメーカ装着部位から22cm程度以上離すこと。」などとする現行の指針(平成9年3月 不要電波問題対策協議会 策定)が妥当であり、また植込み型心臓ペースメーカと同様に体内に植込んで心臓を治療する植込み型除細動器についても同指針の適用が妥当であるとしている。


 当調査の実施に当たっては、平成12年12月に(社)電波産業会に「電波の医用機器等への影響に関する調査研究会」(座長:高倉公朋 東京女子医科大学学長)を設置しており、また、平成12年度は同調査研究会に「ペースメーカ分科会」(主査:笠貫宏 東京女子医科大学 主任教授)を設置し、携帯電話端末等から発射される電波が植込み型心臓ペースメーカ及び植込み型除細動器に及ぼす影響について調査を実施している。
 今回の報告書はこれまでの約4ヶ月間の調査結果等を取りまとめたものである。
  1.  調査の背景
    (1) 現行の指針(平成9年3月 不要電波問題対策協議会 策定)について
     携帯電話端末等から発射される電波が心臓ペースメーカ等の医用機器に及ぼす影響については、不要電波問題対策協議会が平成7年度から平成8年度にかけて詳細な実証実験を実施し、平成9年3月に「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」を策定している。その後、同指針は現在に至るまで国民が安心して携帯電話端末等を利用できる電波環境の確保に大きく寄与しているところである。

    (2) 現行指針策定後の状況変化(再調査が必要となった要因)
    • 新しい携帯電話のサービス(cdmaOne)が開始され、また近々IMT−2000のサービスが開始される予定
    • 植込み型心臓ペースメーカ等の医用機器自身の妨害電波排除能力が向上
    • 植込み型除細動器の装着者が徐々に増加

  2.  調査対象及び調査結果等
    (1) 調査対象
    • 無線機器側:PDC方式携帯電話、PHS、cdmaOne、IMT−2000
    • 医用機器側:植込み型心臓ペースメーカ、植込み型除細動器

    (2) 調査結果等
    • 植込み型心臓ペースメーカについては、前回の調査(平成7年度から平成8年度にかけて実施)での最大干渉距離15cmを越えて影響を受けたものはなく、全体的に改善傾向にあることを確認した。一例として800MHz帯及び1.5GHz帯PDC方式携帯電話端末による調査結果を別添資料に示す。
    • 今回の調査における試験対象とした植込み型心臓ペースメーカが前回の調査以降に発売されたものであること等の理由から、現行の指針に示す安全距離である22cm(最大干渉距離15cmに対して安全率を考慮)を変更することは適切でなく、また変更する必要性も認められないと判断した。


    ※ 参考(平成13年度の予定)
    1 全種類の携帯電話端末及びPHSと心臓ペースメーカ及び除細動器の全機種の組合せによる試験を継続して実施する。
    2 携帯電話を含む無線通信機器と医用機器の関係の調査を実施する。




別添資料


PDC方式携帯電話端末による植込み型心臓ペースメーカへの影響


 800MHz帯携帯電話により68機種の心臓ペースメーカに対して、1.5GHz帯携帯電話により53機種の心臓ペースメーカに対して行った干渉試験の結果を以下に示す。

携帯電話
使用周波数
影響なし 影響あり(干渉距離)
1cm〜5cm 5cm〜10cm 10cm〜15cm 15cm〜
800MHz 64 68
1.5GHz 52 53

800MHz帯PDC方式携帯電話端末による影響

1.5GHz帯PDC方式携帯電話端末による影響