1.技術試験事務の目的
近年の無線局の急激な増加により、周波数がひっ迫するために生じる混信・ふくそうを解消又は軽減するため、電波の有効な利用を可能とする技術を早期に導入することが求められています。
このため、電波を有効に利用できる実現性の高い技術について技術的検討を行い、その技術の早期導入を図ることを目的とする「技術試験事務」を平成8年度から実施し、無線局の開設・運用における周波数のひっ迫を緩和することとしています。
2.技術試験事務の概要
技術試験事務を中心とした技術基準策定の流れは、次のとおりです。

技術試験事務は、大きく次の3つのテーマについて試験を行っています。
- 伝送効率及び収容効率の向上を可能とする技術
既存の周波数帯内において、伝送効率を改善することや1チャンネル当たりの周波数帯幅を狭くすること(ナロー化)で、新たに割当てが可能な周波数を増加させることにより、既存の周波数帯を有効に利用するための技術です。
- ①ナロー化、デジタル化等の技術
- ②インテリジェント化等の制御技術
- 混信・妨害を軽減又は解消する技術
他の無線局からの混信・妨害のために割当てが不可能であった周波数の混信・妨害を軽減又は解消することにより、周波数を有効に利用するための技術です。
- ①同一メディア内の混信・妨害の軽減・解消技術
- ②周波数共用技術
- ③電磁環境計測技術/無線機器計測技術
- 高周波数帯の有効利用技術
現在、その利用技術が確立されていないために、あまり利用が進んでいない高い周波数帯(3GHz以上)を有効に利用するための技術です。
- ①マイクロ波帯技術
- ②ミリ波帯技術
3.技術試験事務案件一覧表
案件名 | 概要 |
---|---|
第5世代移動通信システム等の導入に向けた技術的検討 | 第5世代移動通信システムの早期実現に向けて、超高速、多数同時接続、低遅延・高信頼に対応したキーテクノロジーを組み合わせ、5Gの技術的条件の策定や既設の無線システムとの共用検討、電波伝搬特性等を明らかにするため、総合的な技術試験を行う。 |
無線設備の適合性評価における試験方法等に関する技術試験事務 | 近年の無線設備・測定器等の状況や今後の動向等を踏まえ、無線設備の適合性評価における試験方法等の調査検討を行う。 |
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に伴って開設される無線局と既存無線局の周波数共用に関する調査検討 | 2020年東京オリンピック・パラリンピック大会の開催に向けて、無線システム相互間の周波数共用を図るため、電波伝搬状況の調査や各無線システム間の技術試験等を行う。 |
Connected Car社会実現のための新たなワイヤレスシステムの調査検討 | Connected Car社会の実現に向けて、今後見込まれる通信トラヒックの急激な増大に対応するため、Connected Carで利用する無線通信システムについて通信性能の調査や他の無線システムとの共用条件の検討等を行う。 |
1.2GHz帯等における4K・8K用FPU導入のための技術的条件に関する調査検討 | 1.2/2.3GHz帯を使用するFPUにおいて、4K・8Kの超高精細度テレビジョンに対応した伝送技術の導入を図る。本帯域は、同一又は近接の周波数を使用する他の無線システムとの共用が必要であり、技術試験による検証を行う。 |
非静止衛星通信システムの高度化に係る周波数共用技術に関する調査検討 | 低遅延かつ極域を含むグローバルなエリア確保が可能となる新たな非静止衛星通信システム等を我が国でも導入していくにあたり、非静止衛星通信システム等で使用される周波数と同一・隣接周波数を使用する他システムとの共用条件について調査検討を実施する。 |
次世代高機能レーダーの導入による周波数の有効利用のための技術的条件に関する調査検討 | 近年増加している集中豪雨や大規模な水害に対応するため、より高精度、短時間での気象観測を可能とする「次世代高機能レーダー」の技術的条件を整理するとともに、高機能レーダー間の干渉軽減技術などレーダー間や他システムとの効率的な周波数共用に資する技術の検討、試験を実施する。 |
動的な周波数割当に向けた無線局間の共用に関する調査検討 | ダイナミックな周波数共用を実現するため、1.2GHz帯及び9GHz帯における公共業務用等の既存無線局との間で場所・時間等を考慮した周波数共用の手法等の調査検討を実施する。 |
災害時通信安定化のための衛星システムの高度化に関する調査検討 | 災害時に利用される衛星通信システムの大容量化及び降雨減衰対策のために、大容量通信を可能とする周波数帯域における降雨時の安定性に適した通信方式等の技術的条件の検討を実施する。 |
短波帯固定局のデジタル方式の導入のための共用条件等に関する調査検討 | 短波帯固定局にデジタル方式を導入するため、国際的な検討状況を調査するほか、デジタル方式による狭帯域化やアナログ方式との周波数共用条件等の実現に向けた技術的条件について調査検討を実施する。 |
放送用周波数を有効活用する技術方策に関する調査検討 | 放送の未来像を見据えた放送用周波数の更なる有効活用に向け、地上デジタルテレビジョン放送用周波数の一層の有効利用を図るため、ホワイトスペースの利用拡大や地上放送用周波数のひっ迫状況を解消することを目標に調査検討を実施する。 |
※令和元年度実施分
技術試験事務の適正な実施のための評価体制
技術試験事務は電波利用料を財源としていることから、その実施に当たり透明性・実効性を高めるため、「電波利用料による研究開発等の評価に関する会合」(以下「評価会」という。)を開催し、事前評価、継続評価及び終了評価を実施しています。
評価会での評価は、各技術試験事務案件について、
- 予算要求段階における技術的観点からの評価と技術的な評価の結果に基づく総合評価の2段階評価(事前評価)
- 試験事務の実施段階において、効率的かつ適切に実施されているか
どうか についての評価(継続評価) - 試験事務の終了後に十分な成果が
得られたかどうか などについての評価(終了評価)
を行っています。
また、その評価結果をフィードバックすることにより、今後の技術試験事務のより効率的な実施に努めているところです。
なお、各評価における具体的な評価の観点は以下のとおりです。
評価の観点
<事前評価>
- 新たな技術を導入する必要があるか
どうか 。 - 試験事務の検討を開始する時期が妥当であるか
どうか 。 - 最適な技術が選択されているか
どうか 。 - 実施スケジュール及び体制は適切か
どうか 。 - 上記を踏まえた上で、総合的にみて有益と考えられるか
どうか 。
<継続評価>
- 実施内容は最終的な目標を達成するために適切なものであったか
どうか 。 - 検討に当たって使用された予算・実施体制は妥当であったか
どうか 。 - 実施年度の目標がどの程度達成されたか
どうか 。 - 次年度の予算・実施計画及び体制等が妥当か
どうか 。 - 上記を踏まえた上で、総合的にみて適切に実施されているか
どうか 。
<終了評価>
- 試験事務の検討を実施する必要性があったか
どうか 。 - 試験事務の検討を開始する時期が妥当であったか
どうか 。 - 資金の使用は効率的であったか
どうか 。 - 目標達成のための方策(人材、スケジュール設定、具体的な作業方針等)は妥当であったか
どうか 。 - 試験の成果が技術基準等に反映された(される見込みである)か
どうか 。 - 周波数ひっ迫対策に資する副次的な成果(今後有用とみられる新たな技術課題、技術的留意点等)が得られたか
どうか 。 - 上記を踏まえ、総合的にみて有益であったか
どうか 。
評価会の構成員一覧(五十音順、敬称略)
氏名 | 所属 |
---|---|
井家上 哲史 | 明治大学 専任教授 |
岩波 保則 | 名古屋工業大学大学院 教授 |
大柴 小枝子 | 京都工芸繊維大学大学院 教授 |
笹瀬 巌 | 慶應義塾大学 教授 |
橋本 修 | 青山学院大学 副学長・教授 |
長谷山 美紀 | 北海道大学大学院 教授 |
秦 正治 | 岡山大学大学院 名誉教授 |
村口 正弘 | 東京理科大学 教授 |
守倉 正博 | 京都大学大学院 教授 |
山尾 泰 | 電気通信大学 教授・センター長 |
(注)平成30年度(4月1日時点)の構成員
過去の評価会での議事概要
- 事前評価
- 継続評価
- 終了評価