平成17年8月11

電波の医用機器への影響に関する調査結果

新たな方式の携帯電話端末及びRFID機器が植込み型医用機器へ与える影響について確認

  総務省では、平成12年度から電波の医用機器への影響に関する調査を実施しているところです。平成16年度に実施した、新たに導入された方式による携帯電話端末から発射される電波が植込み型医用機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)へ及ぼす影響に関する調査の結果、「携帯電話端末を植込み型心臓ペースメーカ装着部位から22cmセンチメートル程度以上離すこと」などとした現行指針「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」(平成9年3月、不要電波問題対策協議会(現電波環境協議会))は妥当であることが確認されました。
  また、RFID機器(据置きタイプ及びモジュールタイプ)から発射される電波が植込み型医用機器へ及ぼす影響については、平成15年度に確認したハンディタイプのRFID機器と同様に、22cmセンチメートル程度以上離せば影響が避けられることが確認されました。
  さらに、今回、平成16年度までに得られた、各種電波利用機器についての調査結果に基づき、影響防止のための指針を「各種電波利用機器の電波が植込み型医用機器へ及ぼす影響を防止するための指針」として取りまとめました。
1  調査内容
    新たに実用化された携帯電話サービスで用いられる携帯電話端末、及び現在使用されているRFID機器*1の代表的機種から発射される電波が、現在使用されている植込み型医用機器の代表的機種へ及ぼす影響について、その影響が一番大きくなる最悪の実験条件を設定して調査しました。RFID機器については、平成15年度のゲートタイプRFID機器及びハンディタイプRFID機器についての調査に引き続き、据置きタイプRFID機器及びモジュールタイプRFID機器について調査を実施したものです。

  調査機種数は、次のとおりです 。
  (1)   電波発射源
  携帯電話端末
  携帯電話事業者の協力を得て、次の携帯電話端末について調査を実施しました。
(ア)   CDMA2000 1X/CDMA2000 1xEV-DO(800MHzメガヘルツ帯) 3機種
(イ)   CDMA2000 1X/CDMA2000 1xEV-DO(2GHzギガヘルツ帯) 2機種
  RFID機器
  社団法人日本自動認識システム協会の協力を得て、次のRFID機器について調査を実施しました。
(ア)   据置きタイプRFID機器 45機種
(イ)   モジュールタイプRFID機器 16機種
注:   ここでは、公共施設や商業区域などの一般環境下で使用されるRFID機器として社団法人日本自動認識システム協会により選定されたRFID機器を対象としており、工場内など一般人が入ることができない管理区域でのみ使用されるRFID機器(管理区域専用RFID機器)については対象外としています。
  (2)   植込み型医用機器
  ペースメーカ協議会の協力を得て、次の植込み型医用機器について調査を実施しました。
  植込み型心臓ペースメーカ 33機種
  植込み型除細動器  7機種

2  調査結果概要
  (1)   携帯電話端末が植込み型医用機器へ及ぼす影響
  CDMA2000 1X/CDMA2000 1xEV-DO(800MHzメガヘルツ帯)携帯電話端末が植込み型医用機器へ及ぼす影響
(ア)   心臓ペースメーカについては、ペーシング機能への影響*2を生じる場合があることが確認されました。この影響は、携帯電話端末を遠ざければ正常に復する可逆的なもので、最も遠く離れた位置でこの影響が確認されたときの距離は8cmセンチメートルでした。
(イ)   除細動器のペースメーカ機能*3については、ペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、携帯電話端末を遠ざければ正常に復する可逆的なもので、最も遠く離れた位置でこの影響が確認されたときの距離は2cmセンチメートルでした。

  また、除細動器の除細動機能*4については、影響は確認されませんでした。
  CDMA2000 1X/CDMA2000 1xEV-DO(2GHzギガヘルツ帯)携帯電話端末が植込み型医用機器へ及ぼす影響
(ア)   心臓ペースメーカについては、ペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、携帯電話端末を遠ざければ正常に復する可逆的なもので、最も遠く離れた位置でこの影響が確認されたときの距離は1cmセンチメートルでした。
(イ)   除細動器については、ペースメーカ機能及び除細動機能のいずれに対しても影響は確認されませんでした。
  本調査では、植込み型医用機器へ及ぼす影響が最大となるよう、携帯電話端末の送信出力を最大にするなどの厳しい条件で試験をしており、調査結果(最も遠く離れた位置で影響が確認された距離等)を通常の通信状態における携帯電話方式間の比較に用いることは適当ではありません。
  (2)   RFID機器が植込み型医用機器へ及ぼす影響
  据置きタイプRFID機器が植込み型医用機器へ及ぼす影響
(ア)   心臓ペースメーカについては、ペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、据置きタイプRFID機器から遠ざかれば正常に復する可逆的なものであり、最も遠く離れた位置でこの影響が確認されたときの距離は14cmセンチメートルでした。
(イ)   除細動器のペースメーカ機能については、ペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、据置きタイプRFID機器から遠ざかれば正常に復する可逆的なものであり、最も遠く離れた位置でこの影響が確認されたときの距離は6cmセンチメートルでした。

  また、除細動器の除細動機能については、不要除細動ショック*5が発生する場合があることが確認されました。最も遠く離れた位置でこの影響が確認されたときの距離は6cmセンチメートル でした。
  モジュールタイプRFID機器が植込み型医用機器へ及ぼす影響
(ア)   心臓ペースメーカについては、モジュールタイプRFID機器のアンテナ部に密着させた状態で、ペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、モジュールタイプRFID機器から遠ざかれば正常に復する可逆的なものでした。
(イ)   除細動器については、ペースメーカ機能及び除細動機能のいずれに対しても影響は確認されませんでした。

3  影響防止のために
  (1)   「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」の妥当性
  CDMA2000 1X/CDMA2000 1xEV-DO(800MHzメガヘルツ帯)及びCDMA2000 1X/CDMA2000 1xEV-DO(2GHzギガヘルツ帯)の携帯電話端末が植込み型医用機器へ及ぼす影響の度合いは、「22cmセンチメートル程度以上離すこと」との指針が示された平成9年当時の端末が及ぼす影響度合いに比べて小さくなっていることが認められます。しかしながら、現在使用されている携帯電話端末の機種を考慮すると、現行指針における携帯電話端末が植込み型医用機器へ与える影響を防止するための対応策は現在でも妥当です。
  (2)   RFID機器の電波が植込み型医用機器へ及ぼす影響を防止するための指針
  RFID機器から発射される電波が植込み型医用機器へ及ぼす影響については、平成15年度(ゲートタイプ及びハンディタイプ)及び平成16年度(据置きタイプ及びモジュールタイプ)の2年にわたって調査を行いました。以下は、この調査結果に基づく、RFID機器に係る指針です。
  ゲートタイプRFID機器
(ア)   植込み型医用機器の装着者は、ゲートタイプRFID機器が設置されている場所及びRFIDステッカ*6が貼付されている場所では、立ち止まらずに通路の中央を真っ直ぐに通過すること。
(イ)   植込み型医用機器の装着者は、ゲートタイプRFID機器の周囲に留まらず、また、寄り掛かったりしないこと。
(ウ)   植込み型医用機器の装着者は、体調に何らかの変化があると感じられる場合は、担当医師に相談すること。
(エ)   植込み型医用機器に対するゲートタイプRFID機器の影響を軽減するため、更なる安全性の検討を関係団体で行っていくこと。
  ハンディタイプ、据置きタイプ及びモジュールタイプのRFID機器
(ア)   ハンディタイプRFID機器の操作者は、ハンディタイプRFID機器のアンテナ部を植込み型医用機器の装着部位より22cmセンチメートル程度以内に近づけないこと。
(イ)   植込み型医用機器の装着者は、装着部位を据置きタイプ及びモジュールタイプのRFID機器のアンテナ部より22cmセンチメートル程度以内に近づけないこと。
(ウ)   植込み型医用機器に対するハンディタイプ、据置きタイプ及びモジュールタイプのRFID機器の影響を軽減するため、更なる安全性の検討を関係団体で行っていくこと。
    本指針は、平成15年度及び16年度の2年にわたって、ペースメーカ協議会及び社団法人日本自動認識システム協会の協力を得て行った調査の結果に基づき作成しています。調査対象とした機種は、調査時点において市場に出回っている代表的なものを網羅するように選定を行いましたが、市場に出回っているすべての機種を調査対象としたわけではなく、調査後に新たな機種が市場に出されることなどもあります。また、専門家により妥当と認められる方法により試験を行っていますが、あらゆる環境条件等を考慮しているわけではありません。このため、指針の活用に当たっては、このような点を十分に考慮する必要があります。

  なお、本指針は、一般環境下で使用されるRFID機器を対象としており、社団法人日本自動認識システム協会では、管理区域専用RFID機器が一般環境下で使用されないよう周知啓発活動等を行っていくこととしています。

4  各種電波利用機器の電波が植込み型医用機器へ及ぼす影響を防止するための指針
    平成16年度までに実施した、各種電波利用機器(携帯電話端末、PHS端末、ワイヤレスカード(非接触ICカード)システム、電子商品監視(EAS)機器、RFID(電子タグ)機器及び無線LAN機器)を対象とした電波の植込み型医用機器への影響に関する調査の結果に基づき、「各種電波利用機器の電波が植込み型医用機器へ及ぼす影響を防止するための指針」を、別紙(PDF)のとおり取りまとめました。



    電波の医用機器等への影響に関する調査研究報告書
  医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針(電波環境協議会のHPへのリンク)
  各種電波利用機器の電波が植込み型医用機器へ及ぼす影響を防止するための指針(PDF)


(連絡先)
    総合通信基盤局電波部電波環境課
   担当 前田電波監視官、浅井係長
   電話 (代表)03−5253−5111(内5907)
(直通)03−5253−5907
   FAX 03−5253−5914






用語の説明等

 
*1   RFID機器:電子回路を内蔵したタグとリーダライタとの間で非接触で通信を行うことによりタグのデータを読み書きすることが可能な機器であり、物流、在庫管理や商品等の精算など、さまざまな分野で利用されている。
  また、リーダライタの形状から次のような種類がある。
      ゲートタイプ  リーダライタがゲート状に設置されるもの
      ハンディタイプ  リーダライタを手に持つなど携帯して使用するもの
      据置きタイプ リーダライタを据え置いて使用するもの
      モジュールタイプ プリンタ等に内蔵して使用するもの
  RFID:RADIO FREQUENCY IDENTIFICATION
  RFID機器: リーダライタの形状から次のような種類がある。


*2   ペーシング機能への影響:外部からの電波の影響により以下の状態が発生すること。
  心臓ペースメーカ等が設定された周期でペーシングパルスを発生している状態において、外部からの電波の影響を受けたことによりペーシングパルスが抑圧され、又は、設定された周期からのずれが発生してしまった状態。
  心臓ペースメーカ等のペーシングパルスが抑圧されている状態において、外部からの電波の影響を受けたことによりペーシングパルスが発生してしまった状態。

*3   除細動器のペースメーカ機能:植込み型除細動器は、通常は植込み型心臓ペースメーカとして機能しており、このペースメーカ機能のこと。

*4   除細動器の除細動機能:植込み型除細動器が、心室細動(致死性不整脈の一種であり、心臓が突然痙攣を起こす現象)を検出した場合に、これを止めるために強力な電気ショックを与える機能のこと。

*5   不要除細動ショック:心室細動がないにもかかわらず、植込み型除細動器の除細動機能が働く現象のことで、可逆的影響であるものの、直ちに患者の病状を悪化させる可能性がある。

*6   RFIDステッカ:RFIDステッカは、社団法人日本自動認識システム協会が、植込み型医用機器の装着者に対してRFID機器の設置場所等をわかりやすくして注意を促すとともに、管理区域専用RFID機器が一般環境への流出を防止するために設定したもので、RFID機器の利用者に配布し貼付をお願いしている。
  RFIDステッカ
※  社団法人日本自動認識システム協会の許諾を得て、本資料に使用しています。







電波の医用機器等への影響に関する調査研究報告書
目次(PDF)

  表紙・はじめに
  目次
  第I1編 携帯電話端末の電波が植込み型心臓ペースメーカ等へ及ぼす影響の検討
  第II2編 RFID機器の電波が植込み型心臓ペースメーカ等へ及ぼす影響の検討
  参考資料 管理区域専用RFID機器の電波が植込み型心臓ペースメーカ等へ及ぼす影響
  おわりに
  附属資料