発 表 日 :  2001年1月30日(火)

タイトル :  「生体電磁環境研究推進委員会」の中間報告
  −安全で安心な電波利用に向けて−

総合通信基盤局



 総務省(旧郵政省)は、平成9年10月より「生体電磁環境研究推進委員会(委員長:上野 照剛 東京大学教授)」を開催し、電波の生体安全性評価に関する研究・検討を行っております。
 同委員会は、電磁波が人体に及ぼす影響について国民からの不安の声が増大していることに応えるため、これまでの活動として行ってきた研究及び実験等の中間報告をとりまとめました。

生体電磁環境研究推進委員会中間報告要旨

  1.  電波の人体への影響については、我が国をはじめ、世界各国で50年以上に及ぶ研究成果が蓄積されてきており、これらの膨大な科学的知見に基づいて、電波の健康影響の閾値に十分な安全率を見込んだ電波防護指針が策定されている。
  2.  近年、携帯電話の急激な普及を背景として、電波による健康影響に関して国民の関心が高まっているが、我が国をはじめ国際的な専門機関では、電波防護指針値を下回る強さの電波によって健康に悪影響を及ぼすという確固たる証拠は認められないとの認識で一致している。
  3.  一方、電波防護指針値以下の低レベルの電波が人体に影響を与える可能性があるとの報告が一部にはあるが、これらの研究は必ずしも実験条件等が適切ではないといった問題が指摘されており、このような研究成果は、本来、再現性の確認等を経てから安全性評価のデータとして取り扱われるべきものである。しかしながら、正確な情報提供が必ずしも十分でないことが、国民の漠然とした不安を招く要因となっている。
  4.  本委員会は、世界保健機関(WHO)における国際電磁界プロジェクトと協調しながら、医学・生物学の専門家と高精度なばく露評価を行う工学の専門家による密接な連携の下で、公正かつ中立的に研究を行っている。本委員会におけるこれまでの成果では、いずれも携帯電話基地局及び携帯電話からの電波が人体に影響を及ぼさないことを示している他、過去に影響があると報告された結果について生物・医学/工学的な手法を改善した実験においては、いずれも影響がないという結果を得ている。
  5.  したがって、本委員会は、現時点では電波防護指針値を超えない強さの電波により、非熱効果を含めて健康に悪影響を及ぼすという確固たる証拠は認められないと考える。
  6.  また、最近、「予防原則」という考えに基づき、非常に低レベルの電波防護指針値を採用すべきとの意見があるが、これは科学的な根拠に基づかないものであり、我が国をはじめ大多数の国で採用されている一般環境における電波防護指針は、動物実験で確認された影響の閾値に50倍の安全率(50分の1)を考慮しており、予防的措置としては十分妥当なものである。したがって、現時点ではこの電波防護指針値を直ちに改訂する必要はないものと考える。
  7.  本委員会は、今後とも電波の安全性評価に関する研究を継続し、電波防護指針値の根拠となる科学的データの信頼性の向上を図り、必要ある場合には電波防護指針値の見直し等の提言を行う予定である。電波防護指針を最新の科学的データに基づいて再評価するとともに、得られた研究成果を正確に公表していくことにより、国民が安心して電波を利用できるための環境が整備されていくことを期待する。

 なお、同委員会がとりまとめた中間報告(これまでの研究及び実験の概要等)は、別紙のとおりです。

【これまでの研究】
 1  動物実験:短期ばく露実験(血液−脳関門への影響等を調査)、長期ばく露実験(脳腫瘍の発生等に関する影響を調査)、迷路学習実験(記憶学習への影響等を調査)、脳微小循環動態評価実験(脳への生物学的影響等を調査) 等
 2  疫学調査(携帯電話の使用と脳腫瘍の発生との相関関係等を調査)

【今後のスケジュール】
 今後、同委員会では、携帯電話の使用と脳への影響との関係について、引き続き、
 1  2年間(ラットの一生に相当)にわたり、ラットの頭部に電波をばく露する実験
 2  疫学調査
等を行うこととしております。

関係報道資料
「携帯電話の短期ばく露では脳(血液−脳関門)に障害を与えず」
(1998年9月29日発表)

「熱作用を及ぼさない電波の強さでは脳(血液−脳関門)に障害を与えず」
(1999年9月2日発表)


連絡先: 総合通信基盤局電波部電波環境課
担 当: 矢島課長補佐、上川生体電磁環境係長
電 話: 03−5253−5907

別紙

「生体電磁環境研究推進委員会」構成員




別紙


これまでの研究及び実験の概要等


1.「生体電磁環境研究推進委員会」

 携帯電話の急速な普及に従い、電波による健康への懸念が提起されるようになってきている。電波防護指針を満たしていれば人体に好ましくない影響を与えることはないというのが国際的にも専門家の認識となっているが、電波の影響を科学的に解明していくことは重要であり、またこの問題は人の健康に係わるという観点から提起されている重要な問題でもあるため、総務省(旧郵政省)では、平成9年度から関係省庁や大学の医学・工学の研究者等の協力を得て、「生体電磁環境研究推進委員会」(委員長:上野 照剛・東京大学医学系研究科教授)を開催し、電波の安全性評価に関する研究を医学的及び工学的視点から総合的に推進している。

(1)本委員会の検討事項
 1電波の生体安全性評価に関する研究計画の策定及び研究成果の評価
 2電波の生体安全性評価に関する諸外国の研究成果の評価

(2)研究テーマ選定の考え方等
 本委員会は、平成9年電気通信技術審議会答申「電波利用における人体防護の在り方」において示されている今後研究を進めることが必要な項目並びにWHOの国際EMFプロジェクトにおいて示されている研究課題を踏まえて、可能な限り実施できるものから実行に移すよう計画を作成している。
 また、本委員会は医学・生物学の専門家と高精度なばく露評価を行う工学の専門家による密接な連携の下、公正かつ中立的に電波の安全性評価を実施する体制を取っている。

2.研究活動状況

(1)平成9年度の研究概要(別添1)
 平成9年度の研究は、電波の生体への影響として、特に脳に対する影響に着目した。脳は人体において最も重要な器官の一つであり、かつ、携帯電話より生じる電波の局所ばく露量が大きい器官である。また、電波ばく露により脳腫瘍やその他の疾病の発生が増加するかもしれないという報告もあり、電波ばく露の脳に及ぼす影響をまず第一に解明する必要がある。このため、平成9年度において、ラットの頭部に電波をばく露する実験を行い、局所吸収指針における一般環境指針値(*1)と同程度の強さの電波の短期ばく露(*2)では、血液−脳関門(*3)に障害を及ぼすような影響は引き起こされないことを確認した。
 (*1) 携帯電話等の人体に近接して使用される無線機器に対する電波防護指針値。局所SAR:2W/kg。実際の携帯電話やPHSから発射される電波の強さはこの指針値レベルよりも低い。
 (*2) 1日1時間のばく露を2週間及び4週間
 (*3) BBB:Blood-Brain Barrier。脳毛細血管と脳組織の間に存在し、高分子や水溶性分子の通過を制限することにより、脳内に毒性物質が進入するのを防御し、また神経細胞周囲の細胞環境(浸透圧、pH、電解質、特にカリウム濃度)を維持する働きをしている構造の総称。熱刺激、外傷、急性高血圧、脳虚血、痙攣発作等の際、その透過性が亢進していることが確認されている。従って、もし電波ばく露によりBBBの透過性が亢進するならば、発がん物質が脳内に侵入することによる脳腫瘍発生や、てんかん発作、痙攣が引き起こされる可能性が生じる。

(2)平成10年度の研究概要(別添2)
 平成10年度においては、より強い電波ばく露により血液−脳関門に対し影響があったという海外の実験報告(*4)があったことから、熱作用が生じないようにばく露条件等を改善し、ほぼ同様な電波の強さでの実験を行った結果、熱作用を起こさない電波の強さでは、血液−脳関門に障害を及ぼすような影響は引き起こされないことを確認した。
 (*4) ドイツのFritzeらは1997年に脳平均SARが7.5W/kgの時にBBBの透過性が亢進すると報告。

(3)平成11年度の研究概要別添3
 電磁波が記憶学習へ与える影響について調査するため、ラットを用いたT字型迷路の学習実験を行ったが、脳への電波ばく露レベルが携帯電話の電波防護指針(局所吸収指針)を大幅に上回る場合でも、熱作用を生じない条件では、ラットの課題学習能力への影響は認められなかった。
 また、脳軟膜微小循環が生体顕微鏡的に観察できる(生きたまま繰り返し継続的に観察できる)慢性埋込型 cranial window を外科的にラット頭蓋部に装着し、血行力学的指標(血管径、血流速度、血流量)、血球成分(赤血球、白血球、血小板)挙動、血管の透過性(BBB機能)への電磁波照射に伴う生物学的影響を評価する脳微小循環動態評価実験を行ったが、血行力学的指標、血球成分挙動、血管の透過性いずれについても、急性ばく露(10分間)及び慢性ばく露(4週間)の双方において、電波ばく露による変化は認められなかった。
 さらに、世界保健機関(WHO)の国際電磁界プロジェクト(EMFプロジェクト)において優先順位1位にあげられている「大規模かつ長期の動物実験」に対応して、我が国においても長期ばく露実験を行うべく、そのための予備検討を行った。この長期ばく露実験は、妊娠ラットにENU(ethylnitorosourea)を投与し、胎盤経由により胎児にイニシエーション処理を行い、出生したラットの頭部にラットの一生にあたる2年間電波照射を行いその影響を調査するものである。
 また、携帯電話の使用と脳腫瘍の発生との間に有意な相関があるかどうかを確認する疫学調査について、世界保健機関(WHO)の研究機関である国際がん研究機関(IARC)が推進している疫学調査プロトコルに従い行うこととし、そのための予備調査(フィージビリティスタディ)を実施した。

(4)平成12年度以降の研究内容別添4
 平成12年度においては、2年にわたってラットに電波を照射した場合の影響を調査する長期ばく露実験、同じく2年間をかけて行う予定の疫学調査について、それぞれ本調査を開始している。
 また、電波ばく露による記銘力・記憶再生力に及ぼす影響を調べるための迷路学習実験を行うとともに、脳微小循環動態評価実験について、平成11年度の実験に比べさらにラットの頭蓋部へ局所的に電磁波を照射する装置を開発して実験を行っているところである。

3.国際協力・協調

 電波の生体影響については、国際協調・国際協力の下で行われるべきであり、平成9年から韓国との間で専門家会合を開催し、国際的な交流を推進してきたところであるが、平成10年の日・EU郵政定期協議の合意を受け、平成11年度は新たにEUとも交流を図っていくこととした。これまでの開催状況は、次のとおりである。
(1)日本−韓国専門家会合・ワークショップ
 平成9年に東京、平成10年には韓国ソウルで開催。
(2)第1回日・韓・EU専門家会合・ワークショップ
 平成11年東京で開催。
 本専門家会合・ワークショップでは、国際交流の一環として、韓国・EUの専門家、行政官の間で電波の生体への影響に関する最新の研究状況等について発表し、併せて我が国の専門家・行政官との意見交換、交流が図られている。

4.海外の動向

(1)世界保健機関(WHO)(別添5−1)
 WHOでは、2000年6月に、「電磁環境と公衆衛生−携帯電話端末とその基地局−」と題するファクトシートを公表している。
 本ファクトシートは、WHO、英国の専門家委員会(IEGMP)、カナダのロイアル・ソサイエティが行った新たな調査を踏まえて改訂されたものであり、それでは、
 これまでの調査結果では、携帯電話端末及び基地局から放射される電波のばく露により、がんを誘発したり、促進させるとは考えにくいこと、脳活動、反応時間及び睡眠パターンなどの健康への危険性についても、健康への明らかな重大性はないとしている。
 また、電磁環境の健康への影響の可能性についての科学的な証拠について分析するため、WHOでは国際電磁界(EMF)プロジェクトを設置し、各種調査結果のレビュー並びにリスクアセスメントを実施するとともに、各国の標準化団体を招請して国際的なばく露基準の調整を行うこととしており、さらに、WHOの研究機関である国際がん研究機関(IARC)は、携帯電話と頭部及び頚部のがんとの関連性があるかどうかについて10カ国以上において調査する大規模な疫学調査の実施について調整を行っており、2003年に調査が完了する予定と報告している。
 そして結論として、これまでの調査では、携帯電話及びその基地局からの電波のばく露により健康への悪影響を招くとの結論を出した判断はないが、より正しい判断を下すため、さらに調査が必要であり、3〜4年をかけて、調査の実施、評価及び結果の公表を行うことと報告している。また、現時点の科学情報からは、携帯電話の使用に際して得に警戒する必要はないとしている。

(2)国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)
 ICNIRPは、非電離放射線(紫外線、赤外線、電波、電界、磁界など)に対する人体防護を推進するために1992年に設立された中立・独立の国際委員会である。ICNIRPは、非電離放射線防護に関して世界保健機関(WHO)および国際労働機関(ILO)が公認した非政府機関である。ICNIRPは300GHz以下の周波数範囲の防護指針を1998年に公表した。この防護指針の内容は、1999年に欧州連合の勧告に採用され、欧州各国で利用されている。
 ICNIRPは1996年に「携帯電話の使用と基地局送信機に関する健康問題」と題する声明を公表し、これらが健康に悪影響をおよぼすという科学的根拠がその時点において存在しないことを述べた。1996年以降は、WHOによる国際電磁界プロジェクトの協力機関として貢献している。

(3)EU
 欧州委員会によって運営されている、科学技術研究の協力のための枠組みである欧州科学技術研究協力機構(COST)のうち、電磁界の生物医学的影響を取り扱っているCOST244bisでは、「携帯電話の使用による健康への有害な影響を与える確かな証拠はない」との発表を行っている。このCOST244bisは、2000年11月19日で活動を終了したが、今後、電磁界と先端技術について新たな活動を開始するべく準備中である。

(4)米国
 米国連邦通信委員会FCCでは、1998年1月に「セルラー及びPCS無線装置からの電波の人体のばく露に関する情報」と題する情報を発表している。ここでは、現在使用されている基地局、携帯電話端末、自動車電話端末などからの電波は、FCCが1996年に改訂した「セルラー及びPCSの基地局に使用される固定送信アンテナから放射される無線周波数(RF)領域への人体のばく露の評価に関するガイドライン」より十分小さいレベルになっていると報告するとともに、電波ばく露による健康への影響の可能性について各省と連携したワーキンググループを通じて引き続き様々な研究に注視していくとしている。
 また、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration)では、1999年10月に「携帯電話に関する消費者最新情報」と題する情報を発表している。これでは、携帯電話の電波が人体への健康に対して有害であるという十分確かな証拠は得られていないとし、今後も、各省、産業界、学術機関と協力し、各種研究を適切にフォローアップしていくとしている。

(5)カナダ
 カナダの厚生省は、同国の安全憲章6(Safety Code 6.「無線周波数領域の電磁波(RF)を発生する装置の安全ガイドライン」)の再調査を行うことを決定し、ロイアル・ソサイエティに対し、最新の科学的文献からこの憲章を見直すための専門家パネルを設置するよう要請した。このためロイアル・ソサイエティでは専門家によるパネルを設置して検討を行い、1999年3月に、「無線通信装置からの無線周波数領域の電磁波による健康への危険の可能性についての調査」と題する報告書を作成している。
 同報告書では、さらなる研究が必要であるが、これまでの研究結果では、電波ばく露によるがんの可能性、DNA破壊、てんかん性発作、睡眠不調、生殖問題、先天性異常、頭痛等への影響はないとしており、現在の安全憲章6は電波のばく露が熱作用を伴う場合のレベルを考慮したものであるが、現時点においては熱作用を伴わない場合までを考慮した改正を行う必要はないとしている。なお、現在の安全憲章6は電波関係労働者の場合の規定において一部漏れがあることから、その点については改訂すべきであると勧告している。

(6)オーストラリア
 オーストラリア放射線防護・核安全庁は、「携帯電話システムと健康への影響」と題する情報をそのホームページにおいて公開しているが、そこでは、これまでのところ健康に対して有害であるという確証は得られていないところであるが、オーストラリア連邦政府は450万ドルを投じて様々な研究を推進しているところであると述べている。

(7)英国
 英国政府は、携帯電話の健康への影響について検討を行うため、独立の専門家グループであるIEGMP(Independent Expert Group on Mobile Phones)を設置した。IEGMPは、2000年4月に、「携帯電話と健康」と題する報告書を作成・公表している。
 それによれば、結論としては、これまでの調査結果からは、電波のばく露はガイドラインで規定されるレベル以下であれば一般公衆への健康への悪影響は及ぼさないと言えるが、さらに3年をかけて調査するべきであるとしている。また、「予防的措置(Precautionary Approach)」(*5)として、英国で使われている英国放射線防護委員会(NRPB:National Radiological Protection Board)が作成したガイドライン(NRPBガイドライン) (*6)のかわりに、他のEU諸国と同様に、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP:International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection)のガイドラインを採用すること、子供の携帯電話の過度の使用は控えるように、などの勧告を行っている。
 (*5) 高度の科学的不確かさがある状況に適用されるリスクマネージメント政策
 (*6) NRPBガイドラインは職業的ばく露と公衆のばく露の区別がない。ICNIRPガイドラインはわが国と同様公衆には職業的ばく露より5倍大きな安全率を用いている。

5.まとめ

 電波の人体への影響については、我が国をはじめ、世界各国で50年以上に及ぶ研究成果が蓄積されてきており、これらの膨大な科学的知見に基づいて、電波の安全な利用を促進するため、電波防護指針が定められている。
 近年、携帯電話の急激な普及を背景として、携帯電話又は携帯電話基地局からの電波による健康影響に関して国民の関心が高まっている。この問題に対して、我が国をはじめ国際的な専門機関では、電波防護指針値を満足している携帯電話又は携帯電話基地局からの電波による健康影響については確固たる証拠はなく、直ちに携帯電話の使用を規制することは適当でないとの認識で一致している。
 一方、電波防護指針値以下の低レベルの電波が人体に影響を与える可能性があるとの報告が一部にはあるが、これらの研究は必ずしも実験条件等が適切ではないといった問題が指摘されており、こうした結果は、これまでの膨大な研究成果と矛盾する部分も多く、その結果の解釈には慎重を期する必要がある。このような研究成果は、本来ならば再現性の確認等を経てから安全性評価のためのデータとして取り扱われるべきものであるが、正確な情報提供が必ずしも十分でなかったことから、国民の漠然とした不安を招く要因となっている。
 こうした状況に対して、生体電磁環境研究推進委員会は、携帯電話等からの電波による健康影響について直接的な評価を行うため、生物・医学実験を行ってきている。この研究プロジェクトは、世界保健機関(WHO)における国際電磁界プロジェクトと協調しながら、医学・生物学の専門家と高精度なばく露評価を行う工学の専門家による密接な連携の下で公正かつ中立的に進められている。
 本委員会におけるこれまでの研究成果では、いずれも携帯電話基地局及び携帯電話からの電波が人体に影響を及ぼさないことを示している。また、過去に影響がありと報告された影響についても、生物・医学/工学的な手法を改善した実験においては、いずれも影響がみられなかった。したがって、本委員会は、現時点では電波防護指針値を超えない強さの電波により、非熱効果を含めて健康に悪影響を及ぼすという確固たる証拠は認められないと考える。
 また、最近、「予防原則(Precautionary Principle)」や「用心のための対策(Precautionary Measurements)」といった考えに基づいて、非常に低レベルの電波防護指針値を採用すべきとの意見がある。しかし、これは必ずしも科学的な根拠に基づかない意見であり、我が国をはじめ、大多数の国で採用されている一般環境における電波防護指針値は、動物実験で確認された影響の閾値に対して50倍の安全率を考慮したものであり、予防的措置としては十分妥当なものである。したがって、現時点ではこの電波防護指針値を直ちに改訂する必要はないものと考える。これは、最近発表された世界保健機関や各国における見解と同様である。
 本委員会では、今後とも電波の安全性評価に関する研究を継続し、電波防護指針値の根拠となる科学的データの信頼性の向上を図り、必要ある場合には電波防護指針値の見直しについて提言を行う予定である。このように、電波防護指針を常に最新の科学的データに基づいて再評価し、その成果を公表していくことにより、国民が安心して電波を利用できるための環境が整備されていくものと期待する。



別添1


平成9年度の研究内容


  1. ばく露装置の開発
    (1)目的
     Fritzeらと類似のばく露方法とするが、全身SARによる温度上昇を避けるため、より頭部に集中するような設計を行う。
    (2)ばく露条件の検討(<  >内はFritzeの条件)
    •  通常のラット(Wistarラット)よりも身体のより大きな700g超のSD(Sprague-Dawley)ラットを用い、脳/全身平均SAR比を大きくする<Wistarラット250〜300g、脳/全身平均SAR比約1.8>。
    •  浸透深さを小さくできる1.5GHz帯(1439MHz)の電磁波とする<900MHZ帯>。
    •  接地板有りのモノポールアンテナを使用する<ダイポール、接地板なし>。
    •  ばく露動物数は8匹<10匹>。
    •  PDC方式の信号を使用する<GSM方式>。
    (3)ばく露評価
     数値解析とラットファントムによる実測との比較
    •  ラットファントム内の温度上昇測定により推定されたSAR分布と数値解析の結果は良好に一致している。
    (4)動物実験のばく露条件
    •  体重720gのラットを8体配置させた場合に、アンテナ入力を0.91Wとすると、ラットの脳ピークSARが2W/kgとなる。
    •  脳ピーク/全身平均SAR比は約9であり、全身加熱による熱作用は抑制できる。(全身加熱による熱作用の閾値は、全身平均SARが1〜4W/kg。)

  2. 短期ばく露実験
    (1)目的
     高周波電磁波の生体、特に脳に及ぼす影響を検討する。
    (2)ばく露条件
    •  脳ピークSAR2W/kg(=電波防護指針の一般環境指針値)にて、8匹同時照射
    •  30週齢以上のSDラット雄8匹×3群(ばく露、偽ばく露、ケージ(飼育箱))×2(条件1、2)
        ○ 条件1:(1時間/日)×(5日/週)×(2週)
        ○ 条件2:(1時間/日)×(5日/週)×(4週)
    (3)実験結果
    •  BBBの透過に及ぼす影響
       EB(Evans blue)法(*7)、HRP(Horseradish peroxidase)法(*8)、アルブミン免疫染色法(*9)の各試験法において、ばく露、偽ばく露、ケージの2週、4週ともに漏出は認められない
       (*7) エバンスブルーは静脈内に投与されると速やかに血清アルブミンと結合する。血清アルブミンは正常なBBBを通過しない。血管外の脳内にEBが存在している場合、異常と判定される。
       (*8) HRPは分子量44,000の糖蛋白質で、静脈内投与されても正常なBBBを通過しない。また、HRPは電子顕微鏡で観察することができるので、微細形態としての蛋白質の動きを確認するのに適している。血管外の脳内にHRPが存在している場合異常と判定される。
       (*9) ラットのアルブミンにのみ結合する抗体を血液中に注入し、その後その抗体を発色させることにより脳内のアルブミンを確認する方法。血管外の脳内で発色が見られた場合、異常と判定される。
    •  病理組織学的検討(神経細胞の形態学的影響)
       脳組織をヘマトキシリンーエオジン(HE)法により染色し、神経細胞の形態学的変化の有無を光学顕微鏡により観察することとし、小脳における、プルキニエ細胞の形態変化と、顆粒層の細胞密度の変化に着目して検討した(プルキニエ細胞は、低酵素、アルコール、疲労などにより変性を起こしやすい細胞であり、また、顆粒層の細胞密度は、変性疾患により疎になる。)。その結果、ばく露、偽ばく露、ケージの2週、4週ともに形態変化は認められなかった。
    •  体重変化
       ばく露、偽ばく露、ケージの2週、4週ともに、各群間および増加率とも差がないことから、体重の増減に影響を及ぼすほどのストレス刺激にはなっていない。
    (4)結論および考察
    •  非熱作用のみの電磁波ばく露において、BBBの透過性亢進は認められなかった。
    •  病理組織学的検討では、本研究における電波ばく露による影響は認められなかったが、短期では影響がでにくいので、長期ばく露実験において再検討が必要である。



別添2


平成10年度の研究内容


  1. ばく露装置の開発
    (1)目的
     Fritzeらの研究と同じばく露条件である脳平均SAR7.5W/kgと、全身平均SAR4W/kg以上の追試を行うための改良設計を行う。
    (2)ばく露条件の検討
    •  720gのSDラットにて、より局所のばく露とするために8→4匹とする。
      条件1: 脳平均SAR=7.5W/kg、全身平均SARをより少なくするため8→4匹にし
     脳平均SAR=7.4W/kg
     全身平均SAR=1.4W/kg
      条件2: 熱作用を伴う全身平均SAR閾値4W/kgを超える条件として
     脳平均SAR=25W/kg
     全身平均SAR=4.5W/kg
    (3)ばく露評価
     数値解析結果から、8→4匹とすることでより脳への局所的ばく露となることを確認した。

  2. 短期ばく露実験
    (1)目的
     脳への高周波ばく露の安全域を検討する。
     ラット36匹を下記の3条件に使用。
      SDラット4匹×3群(ばく露、偽ばく露、ケージ)×3条件
    (2)ばく露条件
      条件1: 熱作用の影響がない場合の検討(4時間ばく露を1回のみ)
     Fritzeらの報告(脳の平均SARが7.5W/kgの時にBBBの透過性が亢進)では、脳の平均SAR7.5W/kgの時の全身平均SARが熱作用を来たす閾値4W/kgを超えた4.2W/kgであったため、深部体温の上昇を来たしている可能性が考えられる。このため、全身加熱による深部体温の上昇を来たさぬよう全身のSARを1.4W/kgと熱作用の閾値を十分下回った条件で検討を行った。
    (ア) 電波の強さ
     アンテナ出力:6W
      脳平均SAR:7.4W/kg、全身平均SAR:1.4W/kg
    (イ) ばく露期間
     4時間/日を1日(Fritzeらと同じ条件)
      条件2: 熱作用の影響がない場合の検討(1時間/日×5日のばく露)
     Fritzeらの実験では4時間ばく露を1回のみであったが、独自のばく露期間を設定。
    (ア) 電波の強さ
     条件1(ア)と同じ
    (イ) ばく露期間
     1時間×日を5日
      条件3: 熱作用の影響がある場合の検討
     熱作用がある場合の検討として、全身平均SARを4.5W/kg(熱作用の閾値4W/kg)と、条件1及び2の3倍以上の電波の強さを設定。
    (ア) 電波の強さ
     アンテナ出力:20W
      脳平均SAR:25W/kg、全身平均SAR:4.5W/kg
    (イ) ばく露期間
     1時間×日を1日
    (3)実験結果
    • BBBの透過に及ぼす影響
       アルブミン免疫染色法を用いた検討を行った結果、条件1及び2において電波ばく露による影響は認められなかった。条件3においては、電波ばく露による影響がばく露終了直後(1時間後)に認められた(1時間後に血管周囲への漏出あり。24時間後では漏出は認められなかった)。
    • 病理組織学的検討(神経細胞の形態学的影響)
       条件1〜3のいずれにおいても、形態学的変化は認められなかった。
    • 高周波ばく露の熱作用の評価
       局所の深部体温の上昇を実測した結果、条件1において頭部、背部、腹部いずれも高周波ばく露による深部体温の上昇は認められなかった(条件2では測定していない)。
       条件3においては、高周波ばく露による明らかな深部体温の上昇が認められた。
    (4)結論及び考察
     過去の研究報告のうち、電波ばく露がBBBの透過性を亢進させるという報告のほとんどが熱作用によるものと考えられている。
     今回の実験では、条件3(全身SAR4.5W/kg)のみにおいては、ばく露直後にBBBの透過性が亢進し、深部体温測定により深部体温の上昇が認められた。
     今回行った実験においては、脳平均SARはFritzeらの実験とほぼ同じ強度であるが、Fritzeらの実験では全身平均SARが4.2W/kgと熱作用の閾値を超えてしまっているのに対し、今回の実験では1.4W/kgと熱作用の閾値を十分下回っていることから、本研究の結果は、熱作用に影響されない、電波の脳への局所ばく露の影響をより直接的に評価するものである。
     なお、BBBの透過性を亢進させる原因は、今回の実験により、熱作用が考えられることから、何らかの原因により全身が加熱され、深部体温の上昇をもたらすのであればその原因になりうると考えられる。
     結論として、脳へのばく露レベルが携帯電話よりも非常に大きな場合でも熱作用がない場合には、電波ばく露によるBBBに対する影響は認められなかったと言える。



別添3


平成11年度の研究内容


  1. ばく露装置の開発
    (1)目的
     2年間の局所ばく露実験を行う装置の条件設定と評価を行う。
    (2)ばく露条件の検討
    •  F344/DuCrjラット5週齢〜109週齢の体重を70〜550gと想定し、10匹同時照射とする
    •  ストレス回避のため、保定器は内径60〜80mmの6種類を準備
    •  数値解析での局所ばく露の確認
       不均一組織を模擬した3体重(126、263、359g)のリアルラットモデルを作成・解析し、成長に伴うラットのサイズの変化に関わらず局所ばく露条件(脳/平均SAR比が4〜7)でばく露が可能であることを確認した。
    •  数値解析とSAR測定の比較
       ラットファントム内温度分布からのSAR推定と数値計算結果が大まかに一致したことから、数値解析が妥当であると言える。
    (3)ばく露評価
     脳/全身平均SAR比は4〜7であり、脳平均SARを2W/kgとした場合の全身平均SARが熱作用の閾値(1〜4W/kg)以下であることから、非熱条件下で頭部局所ばく露を達成している。

  2. 迷路学習実験
    T字型迷路 (1)目的
     T字型迷路を用いて、高周波電磁波がラットの「参照記憶」(長期間にわたり保持される記憶。これに対し短期間のみ保持される記憶は「作業記憶」と呼ばれる)の保持及び獲得に与える影響について検討する。
    (2)実験方法
      <参照記憶保持に与える影響>
     T字型迷路のアームの一方の給餌皿にのみ餌を置き、SDラット(30週齢以上)に、餌の場所を記憶させる訓練を4日間行った8日後、全身平均SAR1.7W/kg、脳平均SAR7.5W/kgの電磁波(1439MHzPDC方式)を4時間ばく露させ、ばく露終了後、訓練時と同様に迷路を試行させ、その正解数を評価。尚、ラットはばく露群6匹、偽ばく露群6匹を用いる。
      <参照記憶獲得に与える影響>
     ラットに、T字型迷路内の餌の場所を記憶させる訓練を4日間行った後、訓練時とは反対の給餌皿に餌を置き換えた試行を4日間続ける。反対の位置に餌を置き換えた直後はラットは餌のない方を選択するが、次第に餌のある方を選択するよう学習し、新たな餌の場所を記憶するようになる(この方法は参照記憶に対する学習能力を評価する目的で用いられてきたものである)。餌を置き換えた後の4日間は、試行の前にラット(ばく露群8匹、偽ばく露群6匹)に全身平均SAR1.7W/kg、脳平均SAR7.5W/kgの電磁波を1時間ばく露させ、正解数の4日間の推移により評価。
    (3)実験結果
    <参照記憶保持に与える影響>
     訓練期間中の正解回数の推移と、ばく露後の正解回数において、ばく露群と偽ばく露群との間に明らかな差を認めなかった。
    <参照記憶獲得に与える影響>
     全身平均SAR1.7W/kg、脳平均SAR7.5W/kgの電磁波のばく露については、訓練期間中の正解回数の推移と、ばく露後の正解回数の推移には、ばく露群と偽ばく露群との間に明らかな差を認めなかった。
     従って、本研究結果から、脳への電磁波ばく露レベルが携帯電話を大幅に上回る場合でも、ラットの課題学習能力への影響は認められないということができる。

  3. 脳微小循環動態評価実験
    (1)目的
     脳軟膜微小循環が生体顕微鏡的に観察できる(生きたまま繰り返し継続的に観察できる)慢性埋込型 cranial window を外科的に装着し、血行力学的指標(血管径、血流速度、血流量)、血球成分(赤血球、白血球、血小板)挙動、血管の透過性(BBB機能)への電磁波照射に伴う生物学的影響を評価する。
     このため、cranial windowを用いた種々の脳軟膜微小循環観察法を確立するとともに、10分間の短時間電磁波ばく露による脳微小循環への急性影響と、約4週間にわたる電磁波ばく露による脳微小循環への慢性影響について検討する。
    (2)ばく露条件
    • 急性ばく露(10分間照射)
       ラットの脳SARを携帯電話に対する電波防護指針値(2W/kg)以下とした場合(脳平均SARが1W/kg)、電波防護指針値以上(脳平均SARが4または8W/kg)の3条件について検討を行った。なお、いずれの場合についても、熱作用が生じない(全身平均SARが4W/kg以下)ばく露条件とした。

    • 慢性ばく露(4週間照射)
       (1時間/日)×(5日/週)×(4週)にわたり、携帯電話に対する電波防護指針値(2W/kg)よりも大きな条件(脳平均SARが4W/kg、全身平均SARが0.91W/kg)で、頭部局所ばく露を行った。
    (3)結論及び考察
     脳軟膜微小循環動態の指標とした、血管径、血流速度、白血球挙動、BBB機能いずれについても、急性ばく露及び慢性ばく露の双方において、電磁波照射による変化は認められなかった。

  4. 長期ばく露実験(予備検討)
    (1)目的
     保定器の検討、実験手法の問題点についての検討を行う。
    (2)ばく露条件
     1439MHzPDC方式、脳平均SAR2W/kg(局所吸収指針値)にて、
    •  (2時間/日)×(5日/週)×(4週)
    •  5週齢F344/DuCrj(Fischer)系ラット雌雄各5匹×3群(ばく露、偽ばく露、無処理)。(開始時ラット体重:雌75〜83g、雄85〜97g)
    •  21週齢F344/DuCrj(Fischer)系ラット雄10匹×1群(ばく露)
    (3)実験結果
      ○ ばく露開始5週齢
    • 生存率・臨床症状
       ばく露終了まで全てのラットが生存し、異常な臨床症状の発現は認められなかった。
    • 体重変化
       ばく露・偽ばく露群での差は認められなかったが、無処理と比較して抑制された。
    • 摂餌量・摂水量
       ばく露・偽ばく露群は抑制傾向を示した。
    • 病理学的検査
       肉眼検査:3群とも、器官・組織に変化を認めなかった。
       器官重量:拘束によるストレスに起因したと考えられる臓器の変化として、副腎重量の増加、前立腺・精嚢重量の減少が観察された。
       血中ホルモン濃度は、ホルモン活性に有意の差は認めなかった。
      ○ ばく露21週齢
    • 生存率・臨床症状
       ばく露終了まで全てのラットが生存し、異常な臨床症状の発現は認められなかった。
    • 体重変化
       1・2週目は減少、3週目からは軽度に増加した。
    • 病理学的検査
       肉眼検査では、異常は観察されなかった。
    (4)結論及び考察
     体重増加の抑制、摂餌量・摂水量の減少、副腎重量の増加、前立腺および精嚢の減少が観察されたが、保定器に拘束されるストレス性の変化と判断される。よって、保定器のサイズは成長に合わせ、より細かく変動させる必要がある
    (5)本実験準備(児動物の作出)
     交尾確認した雌ラットにENU投与を行い、本実験に用いる胎児の分娩・離乳を行う。

  5. 疫学調査(予備調査)
    (1)目的
     WHOの研究機関である国際がん研究機関(IARC)の調査情報に基づき、日本における調査実施の可否についての検討を行う。
    (2)検討項目と結果
    • 個人のばく露量推定に関する情報
       日本の事業者では、通話記録契約者以外は発信時間のみの記録であるので、契約プランと通話料金からの算定と質問票の自己申告をもって通話時間の推定を行った。
    • 脳腫瘍患者の発生率について
       神経外科を有する主要病院からの脳腫瘍登録と7都道府県の地域がん登録データに基づき作成。
    • 質問票の作成
       IARC質問票を基に、重複部の削除・設問順番を編集した日本語版を作成。
    • ヒアリングの実施
       21名のヒアリングと11名の通話時間推定を行った。
    • IARCへの報告
       平成11年12月27日に以下の英語版報告書を提出。
       質問票および回答集計結果(抜粋)
       質問票の通話時間回答と請求書記録との比較
       IARCからの要求統計資料
    (3)結論および考察
    • 平成12年度から本調査を実施することとした。
    • 有機溶剤関係の質問票への追加をIARCに要請する。
    • 疫学調査分科会を立ち上げ、本調査の検討を行うこととした。         



別添4


平成12年度以降の研究内容


  1. ばく露装置の開発
     脳微小循環動態評価実験において、ラット頭蓋部へ高周波電磁界を局所的にばく露する実験を行うため、これまでのモノポールアンテナにかわり、ループアンテナを用いたばく露装置を開発する。

  2. 迷路学習実験
    (1)目的
     電磁波ばく露がラットの記銘機能・記憶再生力に及ぼす影響を検討する。
    (2)ばく露条件
    • 平成12年度
       1439MHzPDC方式、脳平均SAR7.5W/kgにて、以下の照射条件。
        条件1:(4時間/日)×(1日)
        条件2:(1時間/日)×(4日)
    • 平成13年度
       平成12年度と同様の強度にて、(1時間/日)×(4週)照射。
    (3)測定項目
     T字型迷路学習実験において、ばく露群、偽ばく露群およびケージ群(各15匹程度)の記憶・学習に与える影響を検討する。

  3. 長期ばく露実験
    (1)目的
     ENU投与を行った妊娠ラットの出生児に対して、2年間の脳への長期局所ばく露による影響を調査する
    (2)ばく露条件
     1439MHzPDC方式、脳平均SAR2W/kg(局所吸収指針値)と0.67W/kgにて、100匹同時照射(ばく露装置一台につき10匹)
     (1.5時間/日)×(5日/週)×(104週)
     F344/DuCrjラット雌雄各50匹×5群(ばく露2W/kgと0.67W/kg、偽ばく露、ケージ対照、ENU無処理)+ ダミー動物(雌雄各51匹)(ラット体重予測:雌70〜350g、雄75〜550g)
    (3)観察・測定項目
    • ばく露期間中(平成12年度〜平成14年度の間の2年間)
       観察:一般行動・中毒症状・生死等の確認朝夕各1回
       測定:体重・摂餌量についてばく露開始14週までは1回/週、以降は1回/2週
    • ばく露終了後(平成14年度)
       体重:剖検前の一晩絶食後の最終体重
       血清中ホルモン濃度:全群の生存ラットから無作為に選んだ雌雄各5匹
       病理学的検査:器官重量と病理組織学的検査
    (4)統計学的検定
     摂餌量を除く観察・測定項目について、脳平均SAR2W/kg、0.67W/kgのばく露群と偽ばく露群間、ENU投与有無間における以下の統計学的有意差検定を行う。
      ・累積生存率
      ・体重・器官重量
      ・腫瘍発生率
      ・非腫瘍性病変発生率

  4. 脳微小循環動態評価実験
    (1)目的
     これまでのモノポールアンテナよりもさらに局所的に照射可能なループアンテナ式ばく露装置を用いて実験を行う。
    (2)観察・測定項目
     平成11年度と同様、ラット頭蓋部に、脳内の血管系を生きたまま繰り返し継続的に観察できる慢性埋込型 cranial window を外科的に装着し、生体顕微鏡下での脳軟膜微小循環動態(血管径、血流速度、血管内血球成分挙動、血液−脳関門(BBB)機能)の急性変化を観察・検討する

  5. 疫学調査
    (1)目的
     IARCの調査に基づき、日本における疫学調査を実施する。
    (2)調査実施計画
     調査員4名の訓練の後、患者及び一般の人に対してヒアリング調査を行い、平成14年度に調査結果をIARCへ報告。



別添5


海外の関係機関で公表されたレポート等


 電波の人体への影響に関して、国際的な機関をはじめとして各国でレポート等が作成されている。主な機関等が公表しているレポート等は次のとおりである。

別添5−1 「電磁界と公衆衛生−携帯電話とその無線基地局」、WHO 資料No.193、2000年6月改訂
・世界保健機関(WHO)
 http://www.who.int/docstore/peh-emf/publications/facts_press/fact_japanese.htm



別添5−1

WHO 資料 No.193

2000年6月改訂


「電磁界と公衆衛生」

携帯電話とその無線基地局

 移動電話や携帯などと呼ばれている携帯電話は、現代の通信事情において今では必要不可欠なひとつとなっています。世界の地域によってそれは、最も信頼できる電話であったり、入手可能な唯一の電話であったりもします。しかしほとんどのところでは、携帯電話は行動の自由を妨げられることなく会話を続けることができることが非常に人気のある理由です。
 この資料は、無線周波(RF)界の曝露が人体に与える影響に関して1999年11月にはWHOによる見直しや、Royal Society of Canada(1999年)およびイギリスの専門家委員会(IEGMP 2000)による携帯電話と健康に関する再評価を受けて改訂されました。

  携帯電話の使用
 多くの国々では、人口の半分以上がすでに携帯電話を利用しており、市場はさらに急拡大しています。業界では、世界中で2005年には携帯電話加入者が16億人に達するだろうとの予測を立てています。このため、携帯電話の基地局をどんどん新設しなければなりません。基地局とは少ない電力で利用者の端末と通信する無線アンテナのことです。2000年初頭で、イギリスでは約2万基地局、アメリカでは1ヶ所あたり1基地局以上のセルが8万2千セル稼動していました。

  健康への懸念
 携帯電話利用者の莫大な数を考慮すると、健康への悪影響がたとえわずかであっても、それは公衆衛生に対して多きな意味をもつことになります。この資料はそのような関心に向けてつくられました。
 RF界によって起こり得る健康障害を評価するときには、いくつかの重要な点を念頭に置かなければなりません。そのひとつは稼動する周波数です。現在の携帯電話システムは800から1800 MHz(メガヘルツ)の間の周波数域で作動しています。よってRF界を、X線やガンマ線のような電離放射線と混同しないことが重要です。電離放射線とはちがってRF界が、体中で電離作用や放射線を引き起こすことはありえません。このことからRF界は非電離放射線と呼ばれています。

  曝露レベル
 携帯電話端末と基地局とでは、かなり異なる曝露状況にあります。携帯電話利用者のRF曝露は、基地局付近の住民のそれよりずっと高い値を示します。しかし携帯端末は、近くの基地局とつながり続けるために使われる不定期な信号を除いて、電話がかかっているときにのみRFエネルギーを伝えるのに対して、基地局は常に信号を送信しています。

  端末機
 携帯電話の端末機はRFを少ない電力で伝達でき、その最大電力は0.2から0.6ワットの間です。携帯型の送受信機で他のタイプ(例えば無線電話)では、10ワットまたはそれ以上を発するものもあります。RF界の強さ(すなわち利用者へのRF曝露量)は、端末からの距離にともなって急激に弱まります。したがって、ハンズフリー機器を使って頭から何十センチか離して携帯電話を使う人のRF界曝露は、端末を頭に直接つけて使う人よりも格段と低くなります。また、携帯電話使用者の付近にいる人へのRF曝露量についてはそれよりも非常に低くなります。

  基地局
 基地局は、数ワットから100ワット、もしくはそれ以上まで、サービスを提供する対象地域の大きさまたは「セル」によって、その放出する電力レベルは違います。基地局のアンテナはふつう2、30センチくらいの幅に1メートルの高さで、ビルや塔の地上から15〜50メートルのところに備え付けられています。これらのアンテナからは通常、垂直方向には狭く水平方向には広いRFビームが発せられています。このビーム分布の垂直方向の狭さのため、アンテナ直下の地上でのRF界は弱いのです。RF界の強さは、基地局から離れると若干増大し、アンテナからは離れるほど弱くなります。
 屋根の上に設置された2〜5メートルのアンテナの場合、RF界が曝露制限を越えるところに人を近づけないよう通常フェンスがあります。アンテナはその電力を外方向に向け放出し、背面からやアンテナ上部、下部方向に向けては多くのエネルギーを放出しませんから、ビルの中や壁面近くのRFエネルギーはふつう、非常に小さいです。

  居住地域に存在するその他のRF発生源
 ポケットベル、消防署や警察など、緊急を要するサービスに使われるその他のコミュニケーション用アンテナは、携帯電話の基地局と似た電力レベルで稼動し、その周波数もだいたい似ています。テレビやラジオの放送アンテナは、都心部の多くでは、携帯電話の基地局より高いRFレベルを発しているのが普通です。

  健康への影響
 RF界は、曝露された部分(組織)を貫通し、その深さは周波数によって変わります(例えば携帯電話の周波数域だと1センチ位にまで達します)。そのRFエネルギーは体中に吸収され熱を生じますが、通常の体温調節過程でこの熱は除去されます。RF曝露による健康障害ではっきりしているものはすべて熱作用に関するものです。ものすごい発熱には及ばないレベルでも、RFエネルギーが生体組織に作用することがありますが、国際的なガイドライン値以下の曝露レベルで健康への悪影響を示した研究はありません。
 研究のほとんどは、通常のコードレス通信に関連するレベルよりずっと高いレベルのRF界を短期間に体全体へ浴びせたときの結果を調べたものであり、トランシーバーや携帯電話のような機器の登場で、頭部への局所的なRF界曝露による影響がいくつかの研究で示唆されていることが明らかになりました。
 WHOは健康に関するリスク評価をより公正に行うために研究の必要性を認識し、資金調達した機関に対して研究を推進してきました。現時点までで研究が示しているものを簡単に説明すると

  • がん: 現在の科学研究では、携帯電話やその基地局から発せられるようなRF界への曝露ががんを誘発したり促進したりするとは考えにくいこととされています。携帯電話から放出されるものと近いRF界にさらされた動物を使ったいくつかの実験では、RF界が脳腫瘍を引き起こしたり促したりするという科学的な証拠はありません。しかし、1997年に行われたある研究では、RF界が遺伝子組換えネズミにおけるリンパ腫発症の確率を押し上げたことがわかりましたが、この結果が健康に関して何を意味するかははっきりしていません。この発見を裏付け、これら結果と人間のがんとの関連を決定付けるための研究がいくつか続けられています。3つある最近の疫学調査では、携帯電話の使用でがんやその他の病気のリスクが増加するという納得のいく証拠は見つかりませんでした。

  • その他の健康リスク: 科学者たちは、脳の活動や反応時間、睡眠パターンの変化を含めた携帯電話の使用による他の影響も報告してきましたが、これらの影響は小さく、健康への明らかな重大性はありません。これらの結果を確証できるようにさらなる研究が進められています。

  • 自動車の運転: 車の運転中に携帯電話(手に持っていてもハンズフリー製品を使っていても)を使用しているときの交通事故リスクの増加は研究によってはっきりと示されています。

  • 電磁干渉: 携帯電話が医療機器(ペースメーカー、移植可能な心室細動除去器や特定の補聴器を含む)の近くで使用されたとき、干渉を起きる可能性があります。また、携帯電話と航空電子機器とにも干渉の可能性があります。

  電磁界関連のガイドライン
 国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)によって作成された国際ガイドラインは、熱作用、非熱作用の両方に関する影響に関する科学的文献を慎重に分析したものが基礎となっており、RFエネルギーによる危険でわかっているものすべてに対して防護できるようにかなり安全な値になっています。測定値や計算値を見れば、基地局付近で一般の人が立ち入ることができる場所でのRF信号レベルは国際ガイドラインより通常100倍もしくはそれ以上もはるかに低いことがわかります。携帯電話利用者のRF曝露レベルは、それよりはずいぶんと大きいですが、それでも国際ガイドライン値以下です。

  WHOが行っていること
 一般の関心を受けてWHOは、電磁界が及ぼし得る健康障害の科学的論拠を評価するため国際電磁界プロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトにおいて、いくつかの研究が局所的な曝露の問題を取り上げられるなど、研究結果のレビューやRF曝露のリスク評価を行うためのきちんとした方法論を確立させました。また一般向けの情報資料をつくったり、国際曝露基準の調和を試みるために世界中で基準をつくっている機関・組織を集めたりもしています。
 またWHOはRF研究も行っています。携帯電話の使用と頭や首のがんとの関連があるかを特定するために、10カ国以上にまたがる大がかりな疫学調査がWHOの特別がん研究機関であるIARC(国際がん研究機関)を中心に進められています。ちなみにこの研究は2003年までに終了する予定です。

  まとめとWHOが推奨すること
 携帯電話やその基地局から放出されるRF界にさらされることが、健康への悪影響を招くとの結論を出した最近の判断はひとつとしてありません。ですが、健康リスクに対してより正しい判断を下すためのさらなる研究には、データが不足していることもわかっています。必要とされているRF研究がすべて終了し、評価され、いかなる健康リスクでも最終的な結果を発表するまでにはあと3、4年かかるでしょう。それまでの間、WHOが推奨することは

  • 健康面に基づいたガイドラインを遵守すること:国際ガイドラインはすべての人々(携帯電話利用者、基地局付近の労働者や居住者、また携帯電話を利用しない人々も含む)を保護するためにつくられました。

  • 用心のための対策

    • 政府: 規制当局で、健康を基準としたガイドラインをすでに採用してはいるが、一般の関心があるため、RF界曝露を削減するために追加的な用心政策導入の意向があるところは、その曝露制限にさらに大きな安全係数を勝手に加えることでガイドラインのもつ科学的根拠を覆すべきではありません。用心措置は、自主的な手法をつかって、機器の製造者や一般の人々によるRF界の削減を奨励するというまったく別の施策として導入すべきです。この種の対策案についての詳細は別のWHO資料(Cautionary Policies, WHO Backgrounder, March 2000)に記載されています。

    • 個人: 現時点の科学情報からは、携帯電話の使用に際して特に警戒する必要は示されていません。もし個人的に心配であれば、通話時間を抑えたり、頭部や体から携帯電話を離しておけるハンズフリー機器を使ったりすることで、本人やその子供のRF曝露量を制限するという選択を採っても良いでしょう。

    • 電磁界干渉を避けるために携帯電話の特定区域での使用に関する規約を守りましょう: 携帯電話は、心臓ペースメーカーや補聴器など特定の電子医療機器と干渉する恐れがあります。病院の集中治療室では携帯電話の使用が患者にとって危険となり得るので、そのような場所での使用は行うべきではありません。同じく飛行機内でも、その位置確認システムと干渉する可能性があるため携帯電話を使用するべきではありません。

    • 自動車運転上の安全確保: 走行中の車内で、従来型の受話器でもハンズフリー機器が装備されているものでも、運転者が携帯電話を使用しているときの交通事故の危険性は増加することがはっきりわかっています。自動車運転者は、走行中は携帯電話の使用は絶対に避けるべきです。

    • 簡単な防護策: 基地局(主に建物の屋上に設置されているもの)の中には、曝露制限を超えている可能性のある区域への無許可な立ち入りを防ぐためのフェンスや壁、その他の防護対策を必要とするものがあるかもしれません。

    • RF吸収機器: 科学的証拠からは、携帯電話にRF吸収カバーやその他の「吸収機器」を装着するいかなる必要性も示唆されていません。健康という観点からそのような機器の正当性は認められませんし、それらの多くがRF曝露量の削減にどれだけ効果的かは実証されてもいません。

    • 基地局の設置に際する地域との話し合い: 基地局の設置場所には、信号をきっちりと覆うことを計画すると同時に維持管理のために進入可能としなければなりません。基地局周辺のRF界レベルが健康リスクとは考えられていませんが、立地決定には景観や住民感情に留意するべきです。幼稚園、学校、遊び場の近くに基地局を選ぶ際には特別な配慮が必要でしょう。アンテナ新設の計画段階から、携帯電話事業者、地域の自治体、住民との間にオープンな対話や議論があれば、新しい施設に対する住民の理解や受け入れ拡大の獲得につなげることができます。

    • 情報提供: 携帯電話技術に関する一般的な理解度の向上や、実体であれ感知であれ、その不信感・不安を小さくするためには、科学者、政府、業界、一般市民間のコミュニケーションや健康に関する情報伝達の効果的な仕組みが必要です。ここでいう情報は、正確であると同時に議論のレベルに適切でかつ対象となる人々にわかりやすいものであるべきです。



「生体電磁環境研究推進委員会」構成員


(敬称略 五十音順)
 

あ  べ とし あき
阿 部 俊 昭
 
東京慈恵会医科大学教授
 

いと う しん いち
伊 藤 信 一
 
モトローラ(株)標準統括本部技師長
 
委員長
うえ の しょうごう
上 野 照 剛
 
東京大学大学院医学系研究科教授
 

おおくぼ  ちよじ
大久保 千代次
 
厚生労働省国立公衆衛生院生理衛生学部長
 

おか ざき  ひろし
岡 崎   宏
 
通信機械工業会常務理事
 

お  の てつ や
小 野 哲 也
 
東北大学医学部教授
 

きく い   つとむ
菊 井   勉
 
(財)テレコムエンジニアリングセンター理事
 

しら い とも ゆき
白 井 智 之
 
名古屋市立大学医学部教授
 

すぎ うら  あきら
杉 浦   行
 
東北大学電気通信研究所教授
 

た  き まさ お
多 氣 昌 生
 
東京都立大学大学院工学研究科教授
 

たち ばな   ゆたか
立 花   豊
 
(社)電波産業会研究開発本部次長
 

な がわ ひろ かず
名 川 弘 一
 
東京大学大学院医学系研究科教授
 

はぎ わら あさひこ
萩 原 旭 児
 
(社)電気通信事業者協会業務部長
 

ふじ わら  おさむ
藤 原   修
 
名古屋工業大学工学部教授
 

ほん ま たけ し
本 間 健 資
 
厚生労働省産業医学総合研究所健康障害予防研究部長
 

みや こし じゅんじ
宮 越 順 二
 
京都大学大学院医学研究科助教授
 

やま ぐち なおひと
山 口 直 人
 
厚生労働省国立がんセンター研究所がん情報研究部長
 

やま なか ゆきお
山 中 幸 雄
 
総務省通信総合研究所電磁環境研究室長

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